磁気記録の媒体として用いられる,主としてポリエステルなどのテープに磁性体を塗布したもの。1898年デンマークのポールセンV.Poulsenが初めて磁気録音再生機を発明した際,使用した記録媒体の鋼線は直径0.2~0.3mmの炭素鋼線が用いられ,抗磁力(保磁力)も50Oe(エルステッド)と非常に低いものであった。1920年にドイツのフロイマーF.Pfleumerは紙やプラスチックをベースとした磁気テープを発明し,AEG社がこのテープを用いたテープレコーダーを商品化した。
47年になるとアメリカの3M社がマグネタイトを紙とプラスチックに塗布したテープを発売している。日本では50年に東京通信工業(現,ソニー)が紙をベースとした磁気テープの生産を開始した。紙は強度が十分でなく湿度に弱いためまもなくプラスチックに変わっていった。
1948年に3M社から磁性体にガンマヘマタイトを用い,アセテートのプラスチックベースに塗布した磁気テープが発売された。これは性能的にも優れたものであった。テープを薄くして長時間化し,さらに小型化するためには強いベースの開発が要望された。アメリカのデュポン社が開発したポリエステルは,その要求に十分耐えるもので,それを使用した磁気テープの生産が54年ころから始まった。
62年にはオランダのフィリップス社から,テープ幅3.81mmのコンパクトカセットシステムが発売された。テープ速度が4.8cm/sと遅いために,周波数特性やS/N比がわるく,その改善のため磁性体の研究が進み,磁性体の微粒子化,高抗磁力化が進んだ。68年に二酸化クロムを用いた磁気テープが,さらに70年にはコバルトを含んだ酸化鉄の磁気テープがコンパクトカセット用に作られるようになり,また合金を用いたメタルテープも実用化されている。
磁気テープを構造から分類すると,プラスチックベースに磁性体を塗布したいわゆる塗布形がもっとも一般的であるが,ベースに金属磁性体を蒸着した蒸着形も一部実用化されている。磁気テープの構造を図1に示す。支持体のベースフィルムは磁気テープの強度を担うもので,ポリエステルフィルムが通常用いられており,この上に磁気記録層(磁性層)が塗布されている。この磁気記録層は強磁性をもつ微粒子粉を有機ポリマーのバインダーに分散したものを均一に塗布したものである。磁気記録層とベース間に接着強度を上げるため下塗層を設けることがある。バックコーティングを施すことで,摩擦抵抗を増やすことによりテープの巻き特性をよくできる。また帯電防止のためにも比較的電気抵抗の小さいカーボンが塗布されている。
磁性体は一般的には形が針状で長さ0.5μm前後,また均一な分布をもつものが要求される。微粒子化することで単位体積当りの磁性粒子の数を増やすことができ,雑音レベルを下げると同時に抗磁力を大きくし,出力を増大できる。放送用のオープンテープではγ-Fe2O3の針状粒子が用いられている。抗磁力は320Oe程度である。コンパクトカセットや1/2インチのビデオカセットテープでは針状の二酸化クロムまたはコバルトを針状のγ-Fe2O3の製造の途中で加えて,抗磁力を550Oe前後に上げたものが使われている。最近ではさらに,鉄,コバルトを主成分とするメタル粒子も使われており,抗磁力も1000Oeを超える。また磁性体をバインダーで塗布するのではなく,蒸着で直接磁性薄膜を作ることにより,体積当りの磁化を増やし,抗磁力を上げることにより,高密度記録で出力を上げるのに有効となる。
針状の磁性体は図2に示すように,テープの長さ方向にそろえて配向し塗布してある。録音ヘッドにより作られる磁界によりテープ上の1個1個の針状の磁性体が磁化されるが,配向することにより,それぞれの磁性体の磁化の強さが合成され大きな合成磁界を形成することができる。このようにたくさんの小さな磁界を形成するため,互いの磁界の影響により,せっかく磁化された磁性体の磁化が消される自己減磁の恐れが生ずる。これを防ぐためには逆方向の磁界が加わっても,テープの磁化の強さが0になりにくい,抗磁力Hcの大きい磁性体をテープに用いなければならない。またテープの記録感度を高めるためには,外部磁界が0になった場合の残留磁束密度Bγが大きいことが必要である。磁気テープに用いられた磁性体の特性の一例を図3に示す。
磁気テープは用途からみると音響用,ビデオ用,コンピューター用に分類される。音響用は大きな信号から小さな信号を録音するため磁性層を厚くし,磁気飽和を起こりにくくしてある。放送用のオープンテープでは全厚約50μmで磁性層は12μm前後である。ビデオ用は映像のFM信号を記録するため自己減磁の影響をさける必要があり,磁気層を薄くするほうが有利であるが,音声信号も録音するため若干厚めにしている。放送用の1インチのビデオテープは全厚30μmで磁性層が6μm程度である。またスロー再生やスチール再生を行うため,テープの表面の強度を強くしてある。
コンピューター用は出力信号レベルを大きくし,外部雑音による影響を少なくし,誤りを少なくするため磁性層は16μmと厚く,全厚が50μmのものが使われている。データ信号を記録するためドロップアウトによる信号の欠落が起こらないように注意して作られている。
→磁気記憶装置
執筆者:竹ヶ原 俊幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
強磁性媒体を表面に付着したテープに電子情報を磁気的に記録するもので、大容量記録を電源を除いても低コストで安全に長期間保持できる。テープにはオーディオ用、ビデオ用とデータ/コンピュータ用のものがあり、前二者にはアナログ記録方式用とデジタル記録方式用のものがある。
磁気テープの全厚数~数十マイクロメートルの9割以上を占めるベースフィルム(ポリエチレンテレフタレートなど)に、安価・普及型テープはガンマ酸化鉄(γ-Fe2O3)の磁性粉体を、ビデオテープはさらにこれにコバルトを含めたものを塗布したもので、高記録密度用のメタルテープはコバルト・ニッケルなどを蒸着したものである。粉体のバインダーやカートリッジには樹脂を用いている。テープの製法は、普通まず片面または両面に磁性媒体を付着したフィルムをつくり、これを幅3、4メートルに裁断してリールに巻き取る。さらに、使用目的に応じた幅で裁断して規格化されたプラスチック容器やリールに装着する。
テープへの電子情報の書き込みは、軟磁性体にコイルを巻いた磁気ヘッドの微小ギャップをテープに近づけ、コイルの信号電流によってテープ面の磁性媒体を磁化する。こうして、情報はテープの膜面に微小磁石を並べたような形で、水平面(長手)方向に記録される。読み出しはテープに書き込まれた磁界をコイルの誘導電流として、または、磁気効果素子の抵抗変化として検知する。消去にはやや強い高周波の磁界を加え、微小磁石の並びを崩して元に戻す。
音声のアナログ記録のテープレコーダー用としては、オープンリールの1/4インチ(約6ミリメートル)幅のもの、業務用には最大2インチ幅のマルチトラックレコーダーがあり、オーディオカセットや留守番電話機用などのマイクロカセットは3.8ミリメートル、デジタル音声記録には3/4インチのカセットテープ、業務用マルチトラック用には1/2インチのほか、8ミリメートル幅のテープがある。ビデオ用には初期のオープンリールの2インチ、続く1インチから統一型の1/2インチ幅が、ビデオカセットには家庭用のVHSの1/2インチ、8ミリメートル幅のテープのほか、業務用のU規格の3/4インチ、VX方式の1/2インチ幅が、コンピュータ用には2.1インチのオープンリールのほかにカセットの1/2・1/4インチ、8・3.8ミリメートル幅のものがある。
磁気テープは1881年にデンマークのパウルセン(ポールセン)が開発した録音・再生装置テレグラフォンに用いたピアノ線が原型である。1927年にはオーストリアの科学者プロイメル(フロイマー)Fritz Pfleumer(1881―1945)が磁性粉粒子を紙テープに塗布した磁気テープを発明。1935年にはプラスチックテープ基板の録音・再生装置がマグネトフォンの名でドイツで開発・展示され、ヒットラーはこれを宣伝に利用。第二次世界大戦後、アメリカに持ち込まれ、磁気テープの生産が世界で活発化した。1962年にはオランダのフィリップス社はカートリッジ化したコンパクトカセットを発表。現在、バックアップ用などに記録の高密度化が進められている。
[岩田倫典]
『小野京右・多川則男他著『記憶と記録――情報機械学のすすめ』(1995・オーム社)』▽『貞重浩一著『情報記録のエレクトロニクス』(2001・コロナ社)』
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[磁気記憶装置]
強磁性体の磁化特性を利用した記憶媒体を使った記憶装置を磁気記憶装置という。磁気記憶装置で使われる記憶媒体として,1950年代には磁気ドラムが使われたこともあるが,その後長期にわたって磁気ディスクや磁気テープが主流だった。磁気ディスクとしては,後述するハードディスク(固定ディスク)やフロッピーディスクなどがある。…
※「磁気テープ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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