無準備の債務を負いつつ銀行が信用貨幣を造出し貸し付けることをいう。発券銀行・預金銀行のいずれにも等しく妥当する。
信用創造論の古典的主張者は、19世紀後半のスコットランドの経済学者H・D・マクロードである。彼は銀行の本質は要求払いの信用を創造し発行することであるとして、「銀行は貨幣を『貸し』『借り』するための店舗ではなく、信用の製造所なのである。バークレイ僧正の述べたように銀行は金鉱なのである」と主張した。この信用創造に経済発展の起動因としての意義と役割をみいだしたのがJ・A・シュンペーターであって、彼は「循環」を「発展」へと導くものは生産手段の「新結合」であり、企業家にそれを遂行する力を与えるのが信用創造だとした。これを受けてL・A・ハーンの『銀行信用の国民経済的理論』(1920)が登場した。彼は「銀行の授信業務は受信業務に先行する」という命題を掲げ、無現金経済なるものを想定した。アメリカのC・A・フィリップスはその『銀行信用論』(1921)において、こうした諸説を整理し、本源的預金と派生的預金の区別を明確にするとともに両者の関係を代数式で示した。彼に従えば、いまXを貸出限度、Cを現金、Rおよびrを支払準備率、Kを派生的預金歩留り率とすると、ただ一つの銀行しか社会に存在しない場合(一つの金融組織をなす銀行群全体を銀行システムとしてみた場合)には、
また、銀行組織中の一つの銀行についてみた場合には、
となる。これをフィリップスの公式という。
フィリップスによる定式化は、その後の研究の出発点となった。1930年代になると、資本主義経済の自動回復力に疑念が生じ、人々の関心は産出高と雇用水準の決定要因に向かい、投資乗数の理論が登場した。それによって信用拡張高に関する、
なる公式(Kは信用拡張高、Cは本源的預金、rは貸付率、したがって1-rは現金準備率)は、
なる投資乗数の理論(ΔYは所得増加、αは限界消費性向、ΔIは新投資)と重ね合わせて理解されるようになった。独特の時代関心の下に、信用創造論は国民経済的観点から改めて意味づけられたが、ここにおいて現金的信用創造と振替的信用創造の区別が相対化されるようになったのである。
[鈴木芳徳]
『高木暢哉著『銀行信用論』(1952・春秋社)』▽『麓健一著『信用創造理論の研究』(1953・東洋経済新報社)』▽『天利長三著『信用創造論を顧みて』(『伊藤俊夫教授還暦記念論文集 金融と経済の諸問題』所収・1969・中央公論事業出版)』▽『向寿一著『信用創造・マネー循環・景気波動』(1991・同文舘出版)』
銀行は当座預金業務を扱っているので,顧客への貸出しによって当座預金を創設することができる。顧客はこの当座預金を引当てに小切手を振り出すことができる。小切手の受取人はそれを自己の当座口座に振り込めば,保有者は代わっても最初の当座預金残高は減少しない。こうして銀行組織全体としてみると,銀行は一定の現金準備に対して数倍の貸出しを行い,預金を創設することができる。これが銀行の信用創造とよばれる現象である。銀行はどれくらいの大きさまでの信用創造が可能であるかという点について,銀行は貸出しによって本源的預金の幾何級数的倍率の預金を創設することができるという説明がある。これを個別銀行1行の問題と銀行組織全体の問題とに分けて説明しよう。
まず個別銀行の問題として,たとえば甲銀行が顧客Aから新規の預金1億円を受け入れたとする。これを本源的預金とよぶが,甲銀行は顧客の預金引出しにそなえて一定の支払準備を現金で保有しなければならない(〈支払準備率〉の項参照)。これを20%とすれば,甲銀行は預金受入額1億円のうち2000万円の支払準備を除いた8000万円を他の顧客Bへの貸出金に運用し,これによってB名義の当座預金を創設する。これは派生的預金とよばれるが,甲銀行はこの8000万円の預金に対しても20%,1600万円の支払準備を用意し,残り6400万円を貸出しに運用する。こうして甲銀行は1億円の本源的預金をベースに支払準備率20%として限度いっぱいまで貸出しを行うとすれば,派生的預金は4億円まで増加し,預金増加額は合計5億円となる。これは次の無限等比級数によって示される。
100+100×(1-0.2)+100×(1-0.2)2+……=100+80+64+51+……
=100/0.2=500
この説明は,派生的預金が引き出されても全額が同一の甲銀行に戻ってくるという仮定によっている。これはもちろん実情から離れている。実際は,甲銀行の預金のかなりの部分が乙銀行,丙銀行と外部に流出するから,甲銀行自体の信用拡大の限度はもっと小さくなろう。そこで銀行組織全体において,上述の甲銀行が顧客Bに創出した派生的預金8000万円が乙銀行に預け入れられると,これは乙銀行にとって本源的預金となる。乙銀行は同じく支払準備率20%として6400万円を顧客Cに貸し出し,同額の預金を創設することができる。この預金が乙銀行から流出して丙銀行の預金となるとしよう。丙銀行も同じ比率で貸出しにむけるとして,以下同じ過程が繰り返されていくならば,最終的には銀行組織全体としての預金総額は上述の等比級数の示すような形になろう。現在,こうした信用創造論は一般に認められて通説になっている。しかし19世紀末にイギリスのマクラウドHenry Dunning Macleod(1821-1902)が初めて提唱した当初は,銀行は預金以上の貸出しを絶対行うことができないという反対論が強かった。それは1行だけの立場から,預金はすべて本源的預金であるとみたからであり,銀行組織全体についての視野を欠いていたといえる。銀行の預貸併進の現象はこれで説明できる。
執筆者:石田 定夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらの信用を媒介する手段を信用貨幣とよび,一般的には銀行券,小切手,商業手形,広くは自身の素材価値によって行動するかつての本位貨幣以外のいっさいの流通手段をもこれに含む。また金融機関が与信を現金ではなくて当座預金の形態で行い(両建預金または粉飾預金という),本来自己が支配している現金量以上の貸付けを果たすことを信用創造という。 信用は商品生産・流通の拡大とともに普及し,資本主義経済の発達とともに発展し,資本主義経済機構の不可欠要因となっている。…
※「信用創造」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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