日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラスウェル」の意味・わかりやすい解説
ラスウェル
らすうぇる
Harold Dwight Lasswell
(1902―1978)
アメリカの政治学者。イリノイ州ドネルソンに生まれる。1922年シカゴ大学卒業、1926年同大学で博士号獲得。1923~1925年にかけて、ロンドン、ジュネーブ、パリ、ベルリン各大学に留学。1924年シカゴ大学講師、その後助教授、準教授。1946~1970年エール大学教授。1970~1973年ニューヨーク市立大学ジョン・J・カレッジ教授。1973~1975年テンプル大学教授。1955~1956年アメリカ政治学会会長。1970~1972年アメリカ国際法学会会長を務めた。
研究活動は多面にわたり、その主要な領域は次のとおりである。(1)権力と人格の相互作用。これは精神分析の手法を用いて権力人を分析したもの。著書『権力と人間』(1948)に代表される。(2)政治の理論的枠組みの研究。哲学者A・カプランAbraham Kaplan(1918―1993)との共著『権力と社会』Power and Society(1950)がその例である。(3)エリート研究。これは分析の観点を示すのにとどまらず、1890年以降の世界における政治変動の一つの測定基準とされている。彼の編集した『世界革命のエリート』World Revolutionary Elites(1965)はこの分野を代表する。(4)象徴、コミュニケーション、政治宣伝の研究。この面の研究は初期と中期に多く、数量化による内容分析(量的意味論)が中心の『政治の言語』Language of Politics(共著)はその例である。(5)決定過程の研究と政策科学。「決定」はラスウェルの権力論の中心であり、決定作成の過程が入念に理論化されている。決定の内容である政策は、社会過程の全体のなかで、問題志向的かつ総合的に整序される。この面を代表する著作は『政策科学概論』A Preview of Policy Sciences(1971)である。(6)政治、行政関連職の養成のための教育と制度。これは中期と後期に情熱を注いだ研究領域である。『政治学の将来』The Future of Political Science(1963)は(5)(6)との関連で公共政策の担い手の養成とその組織化を提起している。
[小林丈児 2018年12月13日]
『ラスウェル著、久保田きぬ子訳『政治――動態分析』(1959・岩波書店)』▽『永井陽之助訳『権力と人間』改訂新版(1961・東京創元社)』