人に幸福や長寿などの福運を授けると信じられている神々。なかでも七福神(しちふくじん)はよく知られている。恵比須(えびす)、大黒天(だいこくてん)、毘沙門天(びしゃもんてん)、布袋(ほてい)、福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老人(じゅろうじん)、弁才天(べんざいてん)の七神のことだが、これらは本来別々に信仰されていた。七福神として形成されたのは室町期で、現世利益(げんぜりやく)的な欲求や個人的な願望が高まった町衆文化のなかではぐくまれたといわれている。こうした福神信仰はさらに近世の町人の間にも浸透し、金銀財宝や米俵を積んだ宝船と結び付いて、掛軸その他の縁起物としてもてはやされた。一方、寺社側も祭神の喧伝(けんでん)に努めて多くの信者を獲得する。こうしたなかで七福神詣(もう)でが発生・流行することになった。
[佐々木勝]
古代ギリシアの喜劇詩人アリストファネスの喜劇。紀元前388年上演。時事性と激しい攻撃性の失われた中期喜劇の現存例。善人が富み栄えることを嫉(ねた)んだゼウスが福の神を盲目にしたため、世の中の富は悪人のところに集中する。人生の失敗者クレミロスとその召使いの奴隷が福の神をつかまえ、これを医神アスクレピオスの神殿に参籠(さんろう)させて目の治療を受けさせようとする。そこへ貧乏神が現れ、もし万人が金持ちになったらだれも働かなくなるから貧乏のほうがよいと奇妙に説得的な議論をする。ともあれ福の神の目が開き、その結果世の中がいかに変わったかがおもしろおかしく描かれる。豊かになった人間は神々に祈りの供物を捧(ささ)げなくなり、飢えたヘルメスは人間の召使いになる。古代以来ルネサンス期まで、アリストファネスの作中もっとも人気の高かった喜劇である。
[中務哲郎]
狂言の曲名。脇(わき)狂言。大晦日(おおみそか)の夜、男(シテ)は福天(ふくでん)へ年籠(としごも)りしようと、友人を誘って出かける。神前に着いた2人が、富貴を祈願して「福は内へ、鬼は外へ」と囃(はや)しながら豆を打っているところに、福の神(福の神の面を着用)が笑いながら登場。神は神酒(みき)を所望し、2人に幸せになる方法を教えてやろうと、早起き、慈悲、人づきあい、夫婦愛、そしてなによりも神にうまい酒を捧(ささ)げることを説き謡い、ふたたび朗らかに笑って留める。中世庶民の現実的な人生の幸せを求める心のよりどころであった「福神(ふくじん)信仰」を反映した作品。笑いのもつ祝言性が、もっとも素直に、かつ効果的に機能を発揮して、狂言の笑いの本質を示唆している。
[油谷光雄]
狂言の曲名。脇狂言。大蔵,和泉両流にある。福の神の神前で恒例の年取りをしようと,2人の参詣人が連れ立って出かける。豆をまいて囃すところへ,明るい大きな笑い声をあげて福の神が出現する。福の神は両人の参詣を喜び,神酒(みき)を所望したうえで,早起き,慈悲,夫婦和合,隣人愛の徳を説き,自分のような福の神には神酒や供え物をたっぷりせよと,謡い舞い,また朗らかに笑って退場する。登場は参詣人2人と福の神の3人で,福の神がシテ。能における脇能に似て,神仏が示現して人間に祝福を授けるという構想とテーマを,歌舞によって表現する。脇能に笑いの要素をとり込み簡略化した感がある。シテは,役名と同じ専用面をかける。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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