能の種別名。江戸時代の五番立て(一日の番組編成基準に基づく分類法)を正式とした能番組で最初に演じられる能。初番目物ともいう。世阿弥時代は〈脇の猿楽〉と称した。《翁》の脇に据えられることからの名称といい,祝言を内容としている。現行曲は各流とも約40曲。《老松》《白楽天》《放生川》などの〈真ノ序ノ舞物〉,《高砂》《弓八幡》《養老》などの〈神舞物〉,《呉服(くれは)》《右近》《西王母》などの〈女体神舞物〉,《逆矛》《氷室》《賀茂》などの〈舞働物〉,《白鬚(しらひげ)》《道明寺》《大社(おおやしろ)》などの〈楽物(がくもの)〉などがある。また,《竹生島》《九世戸(くせのと)》など〈舞働物〉をシテの役柄から〈竜神物〉,《白鬚》《輪蔵》《寝覚》などをシテの使用面から〈悪尉物(あくじようもの)〉などと称することがある。いずれも国土を祝福し,豊穣を予福し,神社,宮寺(みやでら)(両部信仰の神社)の縁起を語るのを主たる内容とする。〈楽物〉〈舞働物〉〈竜神物〉は,だいたい鎌倉期の延年・風流(ふりゆう)系のもの,〈神舞物〉は主として世阿弥の作品である。
→祝言 →初番目物
執筆者:味方 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
能の種類の一つ。1日の最初に上演される祝福の曲柄。初番目物ともいう。なお、『翁(おきな)』が上演されるときには、それに続いてかならず演じられた。脇能を伴わぬ『翁』の単独演奏が行われるようになったのは、第二次世界大戦後のことである。五番立ての催しがまれで、1日の上演数が減少した現代では、戯曲的な変化に乏しい脇能の出る機会が少なくなっているが、女性を主人公とする幽玄の鬘(かずら)物(三番目物)と並んで、能役者の意識のなかで高い地位を占めていることは揺るがない。現行曲は38曲あり、若い神が凛然(りんぜん)と舞う『高砂(たかさご)』『弓八幡(ゆみやわた)』『養老(ようろう)』、荘重な老いた神の『老松(おいまつ)』『白楽天(はくらくてん)』、エキゾチックな神の『白髭(しらひげ)』『東方朔(とうぼうさく)』、女神の『西王母(せいおうぼ)』『佐保山(さおやま)』、荒ぶる神や竜神などの豪快な『賀茂(かも)』『嵐山(あらしやま)』『竹生島(ちくぶしま)』などがあり、現実の人間をシテとするものに中国の帝王の『鶴亀(つるかめ)(月宮殿(げっきゅうでん))』や神主の『内外詣(うちともうで)』がある。神と鬼の強さの類似性を説いた世阿弥(ぜあみ)は、絶対的な相違として、神は舞を舞うもの、鬼は舞わぬものと規定している。なお、1日の最後に、ワキの登場部分に続いて脇能の後半だけを舞う場合を「祝言能」という。めでたく始まってめでたく終わるというのが、日本の芸能の根本の心であった。
[増田正造]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…(1)能の曲名。脇能物。神物。…
…(1)能 喜多流は《月宮殿》と称する。脇能物。作者不明。…
…
[能の扮装類型]
能では類似した役柄に共通する,一定の装束の組合せによる扮装類型が決まっている。たとえば脇能の前ジテとして登場する老人の役ならば,《高砂》《難波(なにわ)》《老松(おいまつ)》《養老》《嵐山(あらしやま)》《弓八幡(ゆみやわた)》《絵馬》などに共通して,仮髪は尉髪,面は小尉(こじよう),着付は小格子厚板,袴は白大口,上衣は水衣という扮装類型になる。また,たとえば王妃の役なら,天竺の旋陀夫人(《一角仙人》のツレ)も,唐の楊貴妃(《楊貴妃》のシテ)も,日本の白河院の女御(《恋重荷(こいのおもに)》のツレ)も,みな,かぶり物は天冠,着付は摺箔,袴は大口,上衣は唐織を壺折(つぼおり)(後述)に着るという扮装になる。…
※「脇能」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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