市民参加(読み)しみんさんか

改訂新版 世界大百科事典 「市民参加」の意味・わかりやすい解説

市民参加 (しみんさんか)

市民参加は昭和40年代後半以降急速に日本に普及した新しい概念であり,その意味内容はいまだ確定したとはいいきれない。現に市民参加に代えて,これと同義のことばとして住民参加の概念を使う論者もあれば,市民参加と住民参加の両概念を使い分ける論者もある。市民参加ないし住民参加は,最広義には,住民(国民県民,市民)が国政県政市政に参加するいっさいの政治参加行為を意味するが,代表機関を選出する選挙への参加といった間接参加の形態を除いて住民の直接参加形態だけを指すこともある。さらには,直接請求といった法制度上保障されている参加様式を除いて,非制度的な事実上の参加様式のみを指していることもある。いずれにしろ,このような新しい概念が生まれ普及した背景には,住民運動が噴出し,住民と役所との日常的な接触が拡大深化したために,役所が事務事業を円滑に推進するためには関係住民の参加を促しその同意を調達しなければならなくなって,住民の行政過程への参加形態が多様化してきたという時代状況があったのである。

 この市民参加ないし住民参加の概念に近似した外国語をあえて探し求めるとすれば,1930年代のアメリカで使われたpublic (popular) participationとか,60年代のアメリカで流行したcitizen participationなどがあるが,いずれも日本とは歴史的・文化的な背景を異にする状況のなかで形成された概念であるため,これらを日本の市民参加ないし住民参加の概念と等置することはできない。そこで,ここでは,もっぱら日本の状況に即しながら,概念の混乱を整理する意味で,市民参加と住民参加とを区別しながら解説していくことにしたい。

 市民参加とは,政治行政を役所に任せることなく,市民が自治重荷を日常的に担っていくような市民自治の仕組みを確立するために,市民間の討議を拡大し,市民と役所の間の討議を拡大していくことである。民主政治担い手である市民一般が政治行政に能動的に参加して,公共の福祉ないし市民的理性を発見し形成していくことを課題とするものである。

 これに対して,住民参加はもっと特殊現代的な新しい現象である。ここにいう住民参加の意義と課題とを,その典型的な姿において理解しようとするなら,国際空港建設反対運動とか清掃工場建設反対運動といった抵抗型の住民運動のことを念頭において考えてみるとよい。空港,鉄道,道路,原子力発電所,下水処理場,清掃工場などの公共公益施設が大規模化し,これらの施設が周辺地域に直接間接に及ぼす被害が拡大してきているのである。そこで,住民参加とは,特定事業によって直接間接に影響を受ける利害関係者たる市民が,その事業の計画実施過程に参加することであり,この住民参加が課題とするものは,いかなる手続のもとでいかなる方法で,全体の利益と部分の利益,多数者の利益と少数者の利益との調和をはかるかという点にあることになる。日照保護のための方策として採用されている住民同意方式のようなものもあれば,役所と住民運動集団との交渉方式もあり,また役所と関係集団代表が参画した協議会方式もある。また,強力な役所と微力な住民運動集団との非対等な力関係を是正する方策として,専門家集団をして住民運動集団のために計画弁護を行わしめるadvocate planningの手法もある。だが,住民参加のむずかしさは,特定事業の計画が具体化し,その立地決定がなされるまで,利害関係者の範囲が確定しないため,彼らの参加をえて計画決定をすることができにくいこと,そして計画が具体化し立地決定がなされた時点になってから,この決定を変更することがきわめて困難であることにある。

 したがって,この住民参加と先の市民参加との適切な組合せが肝要なのであるが,この両者の媒介となりうるものにコミュニティ参加がある。すなわち,コミュニティ参加とは,市町村の区域より狭い地域にいわば自治の下層単位を設け,このレベルで住民の参加を促す方策である。これは市民参加の底辺を拡大する方策であると同時に,住民参加では解決のつかない問題を日常的に解決しようとする方策でもある。住民運動ないし住民参加は,起業者が立案した事業計画に触発されて発生する点で,他発的ないし受動的である。また,それは既得利益の防衛をめざすという点で,消極的である。これに対して,コミュニティ参加は,コミュニティの住民がその生活環境を常日頃から自発的・能動的に点検し,これを積極的に改善する方策を提案するような状況を創出しようとするものである。昭和40年代後半から日本に普及した市民参加の概念は,上記のような意味での市民参加と住民参加とコミュニティ参加の意義と課題が混然一体をなしたものであるといえよう。
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市民参加
しみんさんか

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世界大百科事典(旧版)内の市民参加の言及

【権力分立】より

…ただし,政党間の権力分立が機能するためには前提条件があり,一方では,政権交代の現実的可能性を支えるだけの一定の同質的基盤が政党間に成立していなければならず,他方では,与野党が選挙民への日常利益の供給に埋没して争点を提示できないまでに同質化してしまったのでは,それらの間の権力分立を語ることはやはりできなくなってしまう。政党間の権力分立という視点のほかに,連邦制や地方自治制を担い手とする,中央権力に対する権力分立の意義が再評価され,とくに基礎的自治単位での市民参加の役割を強調する見方がある。 なお連邦制のもとでは,各邦代表機関としての上院が独自の役割をはたすが,そのような連邦制型両院制にかぎらず,両院制の権力分立的役割が見直され,かつては民主主義の立場から〈無用か,それとも有害〉といわれた上院が,国民意思を多次元的に反映する場としての期待が寄せられる。…

※「市民参加」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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