独占禁止法が規制の対象としている行為類型の一つ。主要な要件は,事業者が他の事業者の事業活動を排除,支配する行為によって,一定の取引分野における競争を実質的に制限することである(独占禁止法2条5項)。一定の取引分野における競争を実質的に制限するという要件は,事業者ないしは複数の事業者の結合体が,特定の市場において社会的に許容しえないほど大きな価格支配力を有することであると解される。価格支配力の大小は,理論的には,ある事業者の価格が市場において競争相手の価格をどれくらい上回ったときに,売上量がどれくらい減少するかによって判断される。売上量を減らさずに,競争相手より大幅に高い価格を付けうる事業者ほど大きな価格支配力を持つと評価されるのである。その具体的な判断は,当該事業者のマーケット・シェア,競争事業者の生産余力,参入障壁の高低等々の判断によって可能となる。すなわち,ある事業者がどの程度の価格支配力を有するかの認識をなす局面においては,法的な判断は価格理論の独占の分析を全面的に利用しうるが,それを前提にして,それが社会的に許容しえないものか否かの評価をなす点,およびその価格支配力が非難すべき排除,支配行為によって形成されたものであるかを問題とする点で,法的な独占の概念である私的独占は経済学上の独占概念と異なる。違法な私的独占に対しては公正取引委員会が排除・支配行為の差止めや営業の一部の譲渡等を命じて違法状態を解消する。
これまでの審判決例において,他の事業者に対する支配による私的独占が認められた例としては,市場占有率の高い事業者が,違法な再販売価格維持行為をしたことが,結果的に,競争相手の価格決定を支配したとされた例,すでに業界のトップ・メーカーであった事業者が,多くの競争相手の株式の所有やそれに基づく役員の派遣等を通じて,それらの各企業の意思決定を支配したことを違法な支配であるとした例がある。また他の事業者の排除による私的独占の例は,ほとんど,市場占有率の高い事業者が,〈不公正な取引方法〉である拘束条件付き取引を行うことによって,競争相手が自己の取引相手と取引しえないようにすることを違法な排除とするものである。このように日本の審判決例は,比較的違法の認定が容易で,行為の差止めを命ずれば足りるものに限定されている。
しかし理論的に何が違法とされる排除行為であるかは,競争が本質的に他の事業者の排除という要素を含むものであるため判断が難しく,アメリカのアンチ・トラスト法の判例においては,他の事業者より良質廉価な商品を継続的に消費者に提供することによって結果的に独占者となった,いわゆる押し付けられた独占を違法と評価しうるかという,独占禁止法の哲学,存在意義の根幹にかかわる事件もいくつか存在する。これは,結局,独占的事業者の排除による競争的市場構造の維持という経済政策的目的を,非難すべき行為の存否を中心的な問題とする法的判断とどう調和させるのかという問題であるが,アメリカではアルコア判決(1945)等で,倫理的非難と異なる経済的非難といった概念を導入することによって,小企業がなすのであれば問題とならないが,大企業がなすときには非難しうる行為が存在するとの理論構成をとり,かなり大胆に政策的な判断を優先させた例がある。日本においては,1977年の法改正で独占的状態に対する措置の規定が導入され(8条の4),このような問題に対し立法的な解決を図っている。
→独占
執筆者:来生 新
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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