日本大百科全書(ニッポニカ) 「稲葉小僧」の意味・わかりやすい解説
稲葉小僧
いなばこぞう
江戸時代、天明(てんめい)(1781~89)の初めごろ巷間(こうかん)に稲葉小僧とあだ名された盗賊。一説に親は稲葉丹後守(たんごのかみ)の家臣であり、本人は幼少からの盗癖のため勘当されたというが、実のところ本名は不明である。大名屋敷を専門に荒らし、刀、脇差(わきざし)などを盗み、天明5年(1785)には21歳であったと伝わる。この年に36歳で引廻(ひきまわ)しのうえ獄門となった夜盗田舎(いなか)小僧新助と混同され、また「稲葉小僧新助」という1人の泥棒として語られることが多い。稲葉小僧が捕縛されて町奉行(ぶぎょう)所へ赴く途中、縄抜けして不忍(しのばず)の池に飛び込み、姿を消した話は有名で、お染久松の世話狂言に取り入れられもした。上州(群馬県)まで逃げ延びたが、潜伏中に病死したといわれる。
[稲垣史生]