穿通性心臓外傷(読み)せんつうせいしんぞうがいしょう(その他表記)Penetrating injury of the heart

六訂版 家庭医学大全科 「穿通性心臓外傷」の解説

穿通性心臓外傷
せんつうせいしんぞうがいしょう
Penetrating injury of the heart
(外傷)

どんな外傷か

 穿通性心臓外傷とは、鋭利な物体弾丸により、心筋、心膜、心室中隔(しんしつちゅうかく)、弁・腱索(けんさく)乳頭筋(にゅうとうきん)冠動脈などの損傷を起こすもので、多くは血胸(けっきょう)または心タンポナーデから急激に死に至ります。

 その程度は受傷原因、心損傷の部位と程度、心膜損傷の程度によって左右されます。心膜損傷が大きくて心膜腔内へ流出した血液が自由に胸腔内へ流出するものでは血胸型を示し、心膜損傷が小さくて凝血塊(ぎょうけつかい)により容易に閉鎖してしまうものでは心タンポナーデ型を示します。血胸と心タンポナーデがともに起こる場合もあります。

原因は何か

 胸部刺創(しそう)(傷)や切創(せっそう)、あるいは銃創(じゅうそう)に伴ってみられます。まれに労災事故などで、金属片が前胸部に飛び込んできたり、棒状の物体が胸部に突き刺さって発生することもあります。

症状の現れ方

 穿通性心臓外傷の多くは、心臓外傷危険域(図41)に創(傷)があり、意識障害、頻脈(ひんみゃく)頻呼吸、四肢冷感および冷汗などのショック症状を示しています。

 心タンポナーデに陥っていれば、ベックの三徴(血圧低下、静脈圧上昇、心音減弱)、頸静脈怒張(けいじょうみゃくどちょう)(頸〔首〕の静脈がふくれる)、奇脈(きみゃく)(呼吸運動に伴い、大きくなったり小さくなったりする脈拍)などがみられます。

検査と診断

 前述した心臓外傷危険域の創に加え、身体所見、胸部X線、胸部CT心電図、超音波などの検査によって診断を行います。一刻猶予もなく検査を進め、診断を確定する必要があることから、必要最小限の検査を手際よく行うことが極めて重要です。

治療の方法

 穿通性心臓外傷は緊急手術が絶対に必要であり、迅速かつ適切な外科治療以外に救命する方法はありません。重いショック状態にあり、手術室まで移送するのが困難な場合には救急室(ER)で緊急開胸を行い、心縫合が行われます。

 心タンポナーデを起こしている場合には、心嚢穿刺(しんのうせんし)(針を刺す)や心嚢ドレナージ(管を挿入して排液する)などを行って一時的に状態の改善を図り、引き続いて開胸手術を行うこともあります。

応急処置はどうするか

 包丁やナイフが前胸部に刺さったままの場合には、これを絶対に抜いてはいけません。刃物を抜くことで、出血がより大量となって死に至る場合があるからです。刺さったままの刃物の周囲タオルや手ぬぐいを巻きつけ、刃物が動かないように固定しておく必要があります。

 本症は最も緊急を要する外傷で、大至急、救急車手配をしなければなりません。

益子 邦洋


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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