立往生(読み)たちおうじょう

精選版 日本国語大辞典 「立往生」の意味・読み・例文・類語

たち‐おうじょう‥ワウジャウ【立往生】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 立ったままの姿勢で死ぬこと。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  3. 途中で止まったまま、進みも退きもできなくなること。また、物事がゆきづまりの状態になったり、処置のしかたがわからないような状態になったりすること。
    1. [初出の実例]「股へ雪がはさまって、ソレ弁慶立往生(タチワウジャウ)と来るは」(出典滑稽本浮世風呂(1809‐13)四)
    2. 「黒板と睨めっくらの立往生をしながら」(出典:思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉五)

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故事成語を知る辞典 「立往生」の解説

立ち往生

立ったまま死ぬこと。ある地点で止まったり行き詰まったりしたまま、どうにもできなくなることのたとえ。

[使用例] どうせ家を出る時に、みずさかずきは済まして来たんだから、覚悟はとうからきめてるようなものの、いざとなって見ると、こんな所で弁慶立往生は御免こうむりたいからね[夏目漱石明暗|1916]

[使用例] 時には走ってきて、徐行している車の前に立ちふさがり、さらにはボンネットの上に乗られて立往生したことなどもあった[藤原正彦*若き数学者のアメリカ|1977]

[由来] 「義経―八」に描かれた、源義経家臣武蔵坊弁慶の死にざまから。平家を滅ぼすという大功を挙げた義経は、兄の頼朝にそねまれた結果、ころもがわ(現在の岩手県平泉町)で追い詰められて自害することになります。その際、弁慶は最後まで奮戦し、体中に矢が刺さったまま、長刀を杖にして、仁王立ちになって動きません。「剛の者は立ちながら死する事あると言うぞ」と考えた敵兵が、馬にのって恐る恐る近づくと、その震動でようやく倒れたのでした。敵兵たちは、「義経が自害するのを邪魔されないよう、守っていたのだろう」と言って、深く感動したということです。

[解説] ❶この話は伝説であって、史実ではありません。しかし、人々に語り継がれてきた結果、故事成語になったことも事実。悲劇の英雄、源義経とその家臣、弁慶がいかに庶民から愛されてきたかが、よくわかります。❷現在では、交通のトラブルなどで移動ができなくなる場合によく使われます。また、何かのアクシデントなどで、ものごとの進行ができなくなる場合に用いられることもあります。

〔異形〕弁慶の立ち往生。

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とっさの日本語便利帳 「立往生」の解説

立ち往生

立ったまま死ぬこと。「往生」は死ぬことを意味する。ここから、途中で前にも後にも動けなくなることを意味するようになった。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の立往生の言及

【弁慶】より

…それ以後,弁慶は義経の忠実な部下として活躍する。なかでも,義経西国落ちのとき,海上に現れた平家の怨霊を祈り鎮め(船弁慶伝説),北国落ちには渡しや関所(安宅(あたか)の関がとりたてられて,安宅伝説)で義経を無事に落とすため知謀をめぐらし,衣川の合戦では敵の矢を満身に受けながら,立ったまま死ぬ(立往生伝説)などの説話が注目される。
[熊野,五条天神,鞍馬寺]
 《義経記》以外でも《武蔵坊弁慶絵巻》《弁慶物語》,御伽草子の《自剃弁慶》《橋弁慶》があって,これらでも弁慶の父を熊野別当,その生地を熊野としている。…

※「立往生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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