化学辞典 第2版 「立体障害」の解説
立体障害
リッタイショウガイ
steric hindrance
分子内の非結合性の原子または原子団が,互いに接近すると斥力がはたらき,そのために結合角が正常な角度からゆがめられたり,単結合のまわりの回転が妨げられたり,π電子系の平面構造が不安定となって非平面的な構造をとったりする現象.たとえば,ビフェニルは二つのベンゼン環の間のπ電子相互作用からは平面構造が安定と考えられるが,オルト位に置換基があると,オルト位の原子または置換基間の反発が大きくなり,平面からいちじるしくずれた構造をとるようになる.さらに図のようなビフェニルのオルト置換体では,置換基のかさ高さ(ファンデルワールス半径で表される)のためにベンゼン環の間の単結合の回転が阻止され,光学異性体が単離できる.また,下表にみられるケイ素化合物の求核置換反応の速度差は,イオン-OHがケイ素原子に接近する際の置換基の立体障害の大きさを反映している.このように,立体障害によって化合物の種々の物理的,化学的性質(電子吸収スペクトル,双極子モーメント,酸および塩基の解離定数,反応速度など)が異なる現象は,多くの例で知られている.ある構造についての立体障害の有無,またその程度などは,原子または原子団の大きさを考慮した適当な分子模型を使って,ある程度判定できる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報