立憲主義(読み)リッケンシュギ(その他表記)constitutionalism
constitutionnalisme[フランス]

デジタル大辞泉 「立憲主義」の意味・読み・例文・類語

りっけん‐しゅぎ【立憲主義】

憲法によって支配者恣意しい的な権力を制限しようとする思想および制度

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共同通信ニュース用語解説 「立憲主義」の解説

立憲主義

国民一人一人の権利や自由を国の権力から守るために憲法を制定し、これに従って社会を運営する考え方。国の最高法規と呼ばれる憲法は、主権者である国民が国家の権力を縛る性格を持ち、これに違反する法令は制定できないとする。歴代内閣が禁じてきた集団的自衛権行使を可能にした安全保障関連法について、民進党(旧民主党)や共産党などは一内閣が都合良く憲法解釈を変更するもので、立憲主義を踏みにじると反発してきた経緯がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義 (りっけんしゅぎ)
constitutionalism
constitutionnalisme[フランス]

政治権力恣意的支配に対抗し,権力を制限しようとする原理をさす。1789年のフランス人権宣言16条〈権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていないすべての社会は,憲法を有しない〉は,その簡潔で端的な定式化として知られている。立憲主義は,中世封建制社会で,身分的自由と身分制議会というかたちで存在したし,そのような中世立憲主義は,市民革命期以後の近代立憲主義の成立・発展にとって,しばしば大きな役割を演じた(とくに,イギリスにおけるマグナ・カルタと議会制の伝統)。しかし,中世立憲主義があくまでく身分制的社会編成原理のうえに成り立っていたのに対し,近代立憲主義は,身分から解放された諸個人の人権,および,身分代表ではない国民代表議会を機軸とするものであるところに,両者の基本的な差異がある。

 近代市民革命の成果のうえに,個人の解放の徹底によって立憲主義を追求しようとする方向(イギリス,フランス)に対し,それら先行する立憲主義の影響のもとに権利保障と権力分立を導入しながらも,君主権力を温存しようとする方向(プロイセン)を,とくに,外見的立憲主義Scheinkonstitutionalismus(ドイツ語)とよぶことがある。そこでは,〈外見的scheinbar〉であるかどうかは別として王権に対する関係での権力制約という意味でKonstitutionalismusという語が使われているわけであるが,別の文脈では,ドイツ語のKonstitutionalismusは,Parlamentarismusに対置されて,すなわち,議会の権力に対して制約的なものとして使われることがある。いずれにしても,なんの権力に対する関係においてかは文脈によってちがうが,立憲主義というときには,権力に対する制約ということが念頭におかれる。前述した人権宣言16条の母国フランスでも,19世紀末から20世紀前半にかけての議会中心主義の時代には,立憲主義という語はことさらには使われることが少なく,1958年憲法の下で違憲審査制が導入され活性化される段階になって,立憲主義という言葉が多く使われるようになった。

日本の場合,大日本帝国憲法(1889公布)は,臣民の権利を定めて帝国議会を設けたが,上述の〈外見的立憲主義〉に分類されるような性格のものであった。その運用において立憲的要素を強調しようとする人々は,〈憲政の常道〉を説いて,帝国議会の役割の強化と,責任内閣制を主張した。立憲学派の代表であった美濃部達吉は,〈国民自治ノ思想〉と〈自由平等ノ思想〉を立憲主義の中心思想とし,〈直接民主主義〉(スイス),〈権力分立主義〉(アメリカ),〈議院内閣主義〉(〈現代諸国ノ最モ普通ナルモノ〉),〈官僚主義〉(ドイツ)それぞれの〈立憲政体〉を区別していた。日本国憲法は,一方で,個人の尊厳をうたい,人権を永久不可侵のものとして保障し,他方で,国会を国権の最高機関としながらも,憲法の最高法規性を確保する違憲審査制を定め,権力への制約の見地を強調することによって,近代立憲主義の正統をひくものとなっている。
憲法
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義
りっけんしゅぎ
constitutionalism

政治権力の専制化や政治の恣意(しい)的支配を憲法や法律あるいは民主的な政治制度の確立などによって防止・制限・抑制しようとする思想原理。立憲主義の起源は、古くは13世紀ごろのイギリスにおいて、「国王も官吏も神の法、自然法、この国の慣習法によって政治を行うべし」と主張する中世的な「法の支配」観念のなかにみられる。さらにこの思想は、イギリスにおいては、13世紀末から17世紀末にかけて議会の地位・権限が拡大・強化されるなかで、人権と自由を確保するためには、議会の制定した法律(制定法)に従って統治すべしという考えに発展し、ここに近代的な「法の支配」観念と議会尊重の思想とが結び付き近代的な立憲主義が形成された。フランス人権宣言第16条における「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていない、すべての社会は、憲法を有しない」という規定は、前述した民主的な立憲主義の思想を簡潔に表現したものといえよう。この点からいえば、プロシア憲法下のドイツや、大日本帝国憲法下の日本の政治は、立憲主義の名に値しない非近代的な政治形態であったといえる(外見的立憲主義)。第二次世界大戦後の日本では、憲法によって、憲法の最高法規性(98条)、またそれを確保するための違憲立法審査権(81条)が規定され、さらに国会が国権の最高機関(41条)と定められたので、イギリスやフランスのような立憲主義が確立された。

[田中 浩]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義
りっけんしゅぎ
constitutionalism

法の支配 rule of the lawに類似した意味を持ち,およそ権力保持者の恣意によってではなく,法に従って権力が行使されるべきであるという政治原則をいう。狭義においては,特に政治権力を複数の権力保持者に分有せしめ,その相互的抑制作用を通じて権力の濫用を防止し,もって権力名宛人の利益を守り,政治体系の保全をはかろうとする政治原則である。狭義における立憲主義はすでに古代ギリシア・ローマ,あるいは中世ヨーロッパの一定の都市国家などに見出されるが,近代市民革命を経て近代立憲主義に変貌した。そこでは国民の一定の範囲における国政参加を前提に,権力分立構造を通じて国民個々人の権利,自由の保全をはかろうとする意図が明確にされ,それを具現する成文憲法を制定することが肝要であると考えられるようになった。立憲主義に立脚する民主制が立憲民主制であり,君主制と結合している場合が立憲君主制である。

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百科事典マイペディア 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義【りっけんしゅぎ】

広義には政治権力を法(憲法)によって規制しようという政治原則。狭義には近代市民国家におけるような権力分立の原則に立つ憲法に基づいて政治を行うという原則。権力分立が形式的にのみ認められている場合は外見的立憲主義(外見的立憲制)といわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の立憲主義の言及

【国家】より

…また,国家権力の行使を委託された人々は,しばしば自己の私的利益のために国家権力を濫用するおそれがある。こうしたことのために,自由と権力の対抗関係において自由を確保するには,権力を制限しなければならないとする自由主義や,権力者の恣意的統治に代えて,あらかじめ定立された規則に基づく統治を推し進めようとする立憲主義が高い説得性をもつことになる。多くの近代国家において,憲法が制定され,権力分立制や地方分権制が制度化されているのも,国家権力の濫用あるいは恣意的な権力の行使を抑制しようとするものであるといえよう。…

【国家緊急権】より

…戦争,内乱,天災地変等の緊急事態にあたって,通常の統治体制ではそれに対処できないとして,国家と憲法の存立を維持するため行使される特別の権力。国家緊急権の発動によって,通常,権力の集中と立憲主義(憲法による権力の拘束)の一時的停止が行われる。そのため,人権に対して特別の制限が課されることが多い。…

※「立憲主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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