筋強直性ジストロフィ

内科学 第10版 「筋強直性ジストロフィ」の解説

筋強直性ジストロフィ(ミオトニア症候群)

(1)筋強直性ジストロフィ(dystrophia myotonica, myotonic dystrophy:DM)
定義・概念
 多くは10代以降にミオトニア(myotonia,筋細胞膜の被刺激性の亢進)で発症,その後筋力低下,ついで筋萎縮を中心とする緩徐進行性の疾患である.横紋筋だけではなく多くの臓器を侵し,多彩な症候を呈する.常染色体優性遺伝を示し,成人の遺伝性筋疾患のなかで最も頻度が高い.重症型は先天性筋強直性ジストロフィとして現れる. 多くの家系DM1)は19 q 13.3に,ほかの家系(DM2)は3 q 21に遺伝子座異常をもち,DM1は3塩基CTGの,DM2は4塩基CCTGの繰り返し配列が異常に伸長する.
疫学
 DMの有病率は10万人あたり約5人で,成人発症の筋ジストロフィ中最も多い.DM2はまれである.
臨床症状
 中核をなす症候は,ミオトニア現象と,全身の筋力低下・筋萎縮である.
 ミオトニア現象とは,筋細胞膜の被刺激性が亢進し,刺激により容易に収縮が起こり弛緩しにくくなることである.ハンマーで母指球や舌の筋腹を叩いてみられる叩打性ミオトニア,ないし,患者に握り拳をつくるように命じてから開くように命じるとなかなか開けない把握性ミオトニアとして観察される.ほかに閉眼するとすぐに開眼できない眼瞼ミオトニアもある.
 全身の筋力低下,筋萎縮は四肢遠位筋から始まるのが一般的である(垂れ足,遠位型ミオパチー).胸鎖乳突筋,顔面筋,外眼筋も侵され眼瞼下垂をきたす.
 顔面筋罹患,咬筋の萎縮,眼瞼下垂,および前頭部禿頭,頭蓋骨肥厚により,顔の下半分が細く前頭部が突出(frontal bulging)した,特有の斧状顔貌(hatchet face)を呈する.
 この疾患は多くの臓器を侵し,末梢神経障害,知能障害,性格異常,心伝導障害による不整脈,僧帽弁逸脱,特異な白内障,性腺機能低下,インスリン分泌亢進を伴う糖尿病,胆石,平滑筋障害による嚥下障害/偽性腸閉塞,正常圧水頭症,毛基質腫,などの症候が現れる.
 症状は通常10歳代以降に現れ,きわめてゆっくりと進行するため自覚することがまれで,正確な発症時期が不明である.発症後30年以内に約半数が歩行不能となる.生命予後は症例によるばらつきが大きく一概にはいえないが,死因は,不整脈(房室ブロック)による突然死,心不全,誤嚥による窒息,誤嚥性肺炎が多い.
 DM2の臨床症状は,DM1と異なり,近位筋優位の筋力低下を示すとして,PROMM(proximal myotonic myopathy)という名称も用いられている.
原因・病因
 DM1の変異はmyotonin protein kinase遺伝子(MPTK)の3非翻訳領域でのCTG繰り返し配列の異常伸長である.繰り返し数は,正常で5~38,患者で50以上であり,重症例では数千に達する.
 重症度とCTG繰り返し配列の伸長の程度はよく相関し,長いほど重症であり,また同一家系内で世代を経るほどに,繰り返し配列が伸長していくことによって,より若年で発症し,より重症の表現型が現れる(表現促進現象anticipation).この繰り返し数は臓器ごとに異なることがあり(somatic mosaicism)これが表現型の幅を部分的に説明する.
病理
 筋生検病理所見では,壊死/再生像に乏しいが,筋線維大小不同,中心核の増加が著明である.核は正常より大型で,クロマチンに富み,中心核は縦断面では,鎖状に連なっているのが観察される.小径線維にこのような核の集合した,pyknotic nuclear clampがしばしばみられる.
検査成績
 針筋電図刺入時電位での急降下爆撃音(dive bom­ber sound)は,本疾患を含むミオトニア症候群に特徴的である.
 血清CK値は正常~軽度の上昇にとどまる.一般検査では,異化の亢進による血清IgG値の低下,Tリンパ球数の減少がみられる.MRIで大脳白質のT2延長を示す病変も多くの症例でみられる.
診断
 典型的な症例では,ミオトニア,筋力低下の分布により疑い,斧状顔貌,白内障などの症候,急降下爆撃音,血清IgG低値などの検査所見から診断は容易である.筋生検所見の重症度は筋力低下の程度に比例する.診断には,繰り返し配列の伸張を確認する.
治療・予防・リハビリテーション
 ミオトニア現象に対して,対症的に,塩酸プロカインアミド,塩酸キニーネ,フェニトイン,カルバマゼピン,イミプラミン,ジソピラミドなどの薬物を用いる. 白内障に対する手術,心伝導障害に対するペースメーカの装着も必要に応じて行われる.[清水輝夫]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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