簡易課税制度(読み)カンイカゼイセイド

デジタル大辞泉 「簡易課税制度」の意味・読み・例文・類語

かんいかぜい‐せいど〔カンイクワゼイ‐〕【簡易課税制度】

消費税の納付額を簡単に計算できる特例制度。中小事業者の事務負担を軽減するための措置で、課税売上高が5000万円以下の事業者が選択できる。消費税の納付額は売上にかかる消費税から仕入れにかかる消費税を控除して算出するが、簡易課税制度では、実際の仕入高を集計することなく、売上高に所定みなし仕入率を乗じた金額を用いて納付額を計算できる。→見做し課税

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「簡易課税制度」の意味・わかりやすい解説

簡易課税制度
かんいかぜいせいど

消費税の納付額を、便宜的に簡単に計算できる特例制度。みなし課税制度ともいう。中小事業者の事務負担を軽くする目的で、1989年(平成1)の消費税導入と同時に開始された。課税売上高5000万円以下の事業者が選択できる。一般に事業者は売上げにかかった消費税額から、仕入れにかかった消費税額を差し引いて納税額を決める(本則課税)。しかし中小事業者にとっては、仕入額の正確な把握や領収書の保存などは大きな事務負担となることが多い。このため、売上げに一定率(みなし仕入れ率)をかけて名目上の仕入額を計算し、これを基に納税額を計算するのが簡易課税制度である。つまり本則課税では、消費納税額は「売上高×消費税率-仕入額×消費税率」として計算するが、簡易課税では「売上高×消費税率-売上高×みなし仕入れ率×消費税率」の式から求める。売上高が決まると自動的に仕入額を計算できるため、計算の手間が省けるという利点がある。ただし、みなし仕入れ率は中小事業者支援のため実際の仕入れ率よりも高めに設定される傾向があり、本来、納めるべき消費税の一部が事業者の手元に残る「益税」が生じることがある。また2019年(令和1)10月からの軽減税率導入で複数税率が併存し、簡易課税による納税額と本来払うべき納税額との乖離(かいり)が指摘されている。このため、仕入先への納税額を明記する適格請求書等保存(インボイス方式の導入(2023年10月)を機に、簡易課税を縮小・廃止すべきとの主張がある。なお2011年度の消費税の納税申告件数は306万件あり、このうち簡易課税制度の利用は4割強の131万件に達している。

 中小事業者が簡易課税制度を選択するには「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要がある。一度、簡易課税制度を選択すると、2年間は変更できない。売上高から仕入額を計算するみなし仕入れ率は業種ごとに6段階あり、卸売業で90%、小売業で80%、製造業・農林漁業で70%、料理飲食業で60%、金融・保険・運輸・通信・サービス業は50%、不動産業は40%である。

[矢野 武 2021年5月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「簡易課税制度」の意味・わかりやすい解説

簡易課税制度
かんいかぜいせいど

消費税の納付額を売上高から簡単に算出する制度。中小規模事業者の事務負担を軽減するための特別措置として設立された。消費税額は通常,(課税売上高×消費税率)-(課税仕入高×消費税率)で計算する。しかし簡易課税制度では,実際の課税仕入れの税額を計算することなく,五つの事業種別にみなし仕入れ率を適用して仕入控除税額を計算する。仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするのが特徴。実際に支払った消費税が少なくても事業種に応じたみなし仕入率によって控除できる一方で,課税仕入高が課税売上高より多い場合でも消費税は還付されない。課税期間の前々年または前々事業年度の課税売上高が 5000万円以下で,納税地を所轄する税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した事業者に適用される。また,この届出書を提出した事業者は,原則として 2年間はこの制度の適用を受けなければならない。

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