糸印(読み)イトイン

デジタル大辞泉 「糸印」の意味・読み・例文・類語

いと‐いん【糸印】

室町時代、明から輸入した生糸の荷に添えて送られてきた鋳銅製印章斤量を検査し、これで押印した受領証書を送り返した。形は方形円形五角形などがあり、つまみは人物動物の形をしている。形状字体ともに風雅に富む。

いと‐じるし【糸印】

裁縫で、布地の縫い目の目印として、糸を縫いつけたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「糸印」の意味・読み・例文・類語

いと‐いん【糸印】

  1. 〘 名詞 〙 室町時代から江戸初期にかけて、明(みん)から輸入した生糸の糸荷につけてきた文字を刻んだ銅印。請取や斤量調査の証明に押印されたという。文字は解読しにくいものが多く、形は方形、円形、矩形多角形などあり、大きさも一定しない(普通三センチメートルぐらい)。鈕(ちゅう)(=つまみ)には人物や動物などをかたどり、字体、形状ともに風雅な趣があるところから、文人に愛好された。

いと‐じるし【糸印】

  1. 〘 名詞 〙 布地を仕立てるときに、仕立てが狂わないように布地につける印の一つ。へらやチャコを用いず糸でつけるもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「糸印」の意味・わかりやすい解説

糸印 (いといん)

糸に関係する印章の意。15世紀に中国明から輸入する生糸は,1斤につき1個の印を添えて送られ,着荷の際に斤量を検査して,その受領証にこの糸印をおして先方へ返送し取引の証とした。この際に印章は先方へは返さずに荷受人の手もとにとどめたのでその数も多く,不用品となって世間に散らばった。明の鋳銅印で,印形として鈕(ちゆう)(つまみ)があり,獅子,竜,虎,猿,犬などの怪獣類や人物が鈕にかたどられ,印面も円形,方形その他多様であった。雅味豊かなことから好事家が愛玩し,15世紀以後には押印に好評を博した。こうした糸印の一つに豊臣秀吉の印がある。秀吉印は直径4cmの正円で印文は不詳。朱印として生涯使用したが,秀吉は印章には比較的むとんちゃくであったから,偶然手もとにあった糸印が秀吉印に利用されたと思われる。
印判状
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「糸印」の意味・わかりやすい解説

糸印
いといん

明(みん)からの輸入生糸(きいと)1斤(きん)ごとに付した銅印。室町時代、日明貿易によってわが国は中国から多量の生糸を輸入したが、輸入生糸には1斤(600グラム)につき1個の印を添付してあり、荷物到着後、斤量を検査し、異状なく受領したときは受領証にこの印を押捺(おうなつ)して荷主に返送した。このとき印章は先方に返さず荷受人の手元に残した。これらの印は鋳銅印でかならず鈕(ちゅう)があり、鈕には竜、獅子(しし)などのほか、犬、猿などの動物や人物などさまざまの形のものがある。印面の形態も円形、方形など各種のものがあり、印文も文字の判読できるもの、単なる図形状のものなどさまざまである。

 精巧なものではないが雅趣に富むものが多かったので、後世好事家の愛玩(あいがん)用として利用された。著名人の使用したものとしては、豊臣(とよとみ)秀吉が印判状に使用した円形印がこの糸印であるとされている。

[村井益男]

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