素朴画家(読み)そぼくがか(英語表記)peintres naïfs

改訂新版 世界大百科事典 「素朴画家」の意味・わかりやすい解説

素朴画家 (そぼくがか)
peintres naïfs

正規の美術教育を受けておらず,仕事のかたわら制作する素人画家のことで,職業画家とは区別される。〈現代のプリミティーフ画家〉〈日曜画家〉とも呼ばれる。このような画家はどの時代にも存在したであろうが,20世紀になってフランスの評論家ウーデWilhelm Uhdeによりその存在意義が見いだされたのをきっかけにして,各国で多くの素朴画家が発掘され,注目をあびるようになった。19世紀後半以来,ヨーロッパで西欧文明崩壊の危機感が生まれ,それにともないプリミティーフな世界,素朴(ナイーフ)な世界への希求が高まり,あらゆる制約から解き放たれたかにみえる〈素朴絵画〉が人々の目に新鮮なものとして映ったのである。素朴画家たちは古典的遠近法や明暗法にとらわれることなく,日常生活のごく平凡な光景,あるいは見なれた街角の風景などを,細密な描写と鮮烈な色彩によって表現した。自由にデフォルメされ構成された画面には童話的な魅力とともに,ある種の異様な熱狂のようなものがたたえられている。彼らの作品美術史主流とは離れた所でもっぱら個人的に制作されたものだが,そこには絵画原点,描くことの原点が無自覚のうちにはらまれていたといえる。たとえばJ.デュビュッフェ子ども精神病者が作り出す芸術,すなわち〈アール・ブリュットArt Brut〉(これも広くいえば素朴絵画に分類される)に着目したのも,ひとつにはそのためであった。

 代表的な作家は,フランスのH.ルソー別格として,ボーシャンAndréBauchant,ボンボアCamille Bombois,ペイロンネDominique-Paul Peyronnet,セラフィーヌ,イタリアのメテリOrneore Metelli,デ・アンジェリスLuigi de Angelis,オランダのメイエルSalomon Meijer,ファン・ヘンクWillem van Genk,ベルギーのグレッフLéon Greffe,スイスのディートリヒAdolf Dietrich,アメリカのハーシュフィールドMorris Hirshfield,グランマ・モーゼズGrandma Moses,ギリシアのテオフィロスTheophilos,ユーゴスラビアのゲネラリッチIvan Generalič,ロシアのピロスマナシビリNiko Pirosmanashvili(ピロスマニ)など。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の素朴画家の言及

【ルソー】より

…ピカソは1908年〈バトー・ラボアールBateau Lavoir(洗濯船)〉でルソーのために宴会を開き,またアポリネールは自分とローランサンの肖像を依頼している(《詩人に霊感を与える女神》1909)。素朴画家を代表するルソーは,正統的な形体把握,色彩用法,構図法にとらわれずに特異な画面を作りあげ,幻想的,夢幻的な絵画世界を作り上げた。画風や技法が時を追って展開,発展するということがあまりなく,主題で分けられるだけであり,それは初期の風景画と肖像画,街頭風景,異国風景,肖像,花と静物などである。…

※「素朴画家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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