組織倫理(読み)そしきりんり(英語表記)organizational ethics

最新 心理学事典「組織倫理」の解説

そしきりんり
組織倫理
organizational ethics

組織倫理は,法律上の義務ではないものの経営姿勢として社会通念から見て妥当な措置を自主的に講ずる,という意味でしばしば用いられる。企業倫理ともいわれる。企業経営者や組織管理職者には類似語のコンプライアンスcomplianceがよく知られている。コンプライアンスとは,企業が経営活動を行なううえで法令やさまざまな関連規則のみならず,社会通念として正当とみなされる規則に従うことであり,法令遵守ともいわれる。1960年代のアメリカで,株式市場の取引における企業犯罪(たとえば,インサイダー取引)が問題になったことで,この用語が使用されるようになったといわれる。日本で組織倫理やコンプライアンスが問題となったきっかけは,1989年に起きた「東芝ココム違反事件」である。その後2000年前後から大企業を中心とする企業犯罪(たとえば,「三菱自動車工業リコール隠し」)が次々と明るみに出て,再び注目された。企業犯罪を生じさせる組織には独特の風土がある。岡本浩一と鎌田晶子(2006)は,組織の意思決定に際して「この案件はだれが提出したものか」といった人的要素を不自然なまで重視する考え方を属人思考とし,それが組織に広く浸透していることを属人的組織風土として,企業犯罪の心理学的な温床として論じた。コンプライアンスを含み,広く企業の社会的責任を論じる際は,CSR(corporate social responsibility)という用語が使われる。

 組織倫理が保たれるための前提は,組織に不可欠な公正さ,すなわち「組織的公正」である。また組織倫理の具体的な実現は「組織市民行動」であり,「性差による役割の分業」である。

【組織的公正organizational justice】 組織的公正とは,組織の構成員が知覚する,組織の機能に関連する公正さのことであり,初めて用いたのは,グリーンバーグGreenberg,J.(1987)である。コルクィットColquitt,J.(2008)によれば,組織的公正は実際の概念というより包括的概念で,公正に関連するいくつもの概念を統括する役目を担っている。組織的公正は,以下の三つの次元に区分することができる。

1.分配的公正distributive justice 決定や分配の結果,あるいは社会的行為に対する心理的な反応としての公正である。ホーマンズHomans,G.C.(1961)は,強化理論に基づいて,人は対人関係において自己利益を最大化する動機をもっており,分配上の公正は互いの利益が投資に比例しているときに得られる,と論じた。アダムスAdams,J.S.(1965)は,ホーマンズの考え方を認知的不協和理論と結びつけて,衡平理論equity theoryを提唱した。アダムスは,人は交換関係において自己のインプット(自分が投入したものすべて)とアウトカム(金銭的報酬,地位といった自分が得られるものすべて)との比率を,交換関係にある他者の比率と比較することで分配的公正が決まると考えた。アウトカム/インプットが自己と他者で等しくなるときを衡平equity,アウトカム/インプットが等しくないときを不衡平inequityと定義した。ウォルスターWalster,E.ら(1978)は,アダムスの衡平理論を親密な対人関係の基礎理論に拡大し発展させている。

2.手続き的公正procedural justice 結果を導くまでの過程に関する公正であり,社会的過程を支配する規範あるいは基準の適切さについての評価である。手続き的公正研究の源流は二つある。まず一つは,チボーThibaut,J.とウォーカーWalker,L.(1975)による裁判の審議過程に関する心理学的研究で,彼らは証拠提示の回数や方法など手続きが判決の満足感に影響していることを見いだし,手続き的公正の概念を提唱した。さらにチボーとウォーカーは,手続き的公正を高める要因として,決定コントロールdecision control(分配や評価の決定に参加して自分が影響を与えられる程度),過程コントロールprocess control(基準づくり,問題点の提示といった決定までの過程に参加した程度)を挙げた。そして,決定コントロールが低くても,過程コントロールが高ければ,たとえ結果が自分にとって不利になっても人はその結果を受け入れやすいことを見いだし,これを公正過程効果fair process effectとよんだ。二つめはレーベンソールLeventhal,G.S.(1980)が報酬分配の公正感は結果ではなく,むしろ分配決定に至る過程の正当性によって決められると述べたことである。レーベンソールは手続き的公正を規定する六つの基準(①一貫性:ある手続きが公正であるためには,人と時間を通じて一貫して適用されていること。②偏見の抑制:決定者が偏った決定をしないこと。③情報の正確さ:正確かつ豊富で専門的な情報に基づいて決定がなされていると確信させる手続きであること。④修正可能性:誤った決定を修正する規定をもっていること。⑤代表性:すべての利害関係者の意見を表現していること。⑥倫理性:倫理や道徳に関する個人的基準に合致すること)を提示した。

3.相互作用的公正interactional justice 他者との相互作用(たとえば,処遇のされ方,対応の仕方,説明の適切さ)における公正である。ビーズBies,R.J.とモーグMoag,J.S.(1986)は,他者からどれくらい真っ当に扱われたり処遇されたかも公正知覚の源泉であると考えた。

【組織市民行動organizational citizenship behavior(OCB)】 組織や職場にはだれにも割り当てられていない職務がつねに相当数存在する。したがって,組織構成員は多少なりとも自分に割り当てられていない職務も自発的にこなしている。オーガンOrgan,D.W.(1988)は,こうした職務を組織市民行動ととらえた。オーガンらは,OCBを「自由裁量的で,公式的な報酬体系では直接的ないし明示的には認識されないものであるが,それが集積することで組織の効率的および友好的機能を促進する個人的行動」(Organ,et al.,2006)と定義した。OCBに関連する多くの研究で,組織市民行動を構成する要素がいくつも提唱されたが,オーガンら(2006)はそれらを総括して,組織市民行動の構成要素として,以下の7点を指摘した。①援助helping(同僚や上司,顧客等の特定の個人を助ける行為),②従順性compliance(作業チーム,部門,組織に対する貢献),③スポーツマンシップsportsmanship(組織や管理者に対してあえて不平・不満を表わさないこと),④市民道徳civic virtue(組織の政治的あるいは統治的過程に対して責任ある建設的な参画を行なう姿勢),⑤組織忠誠心organizational loyalty(組織の構成員でない人びとに対して自分の組織の誇りを伝える),⑥自己開発self-development(自分の職務関連の技能や知識を拡大しようとして自主的に対策を講じること),⑦個人自発性individual initiative(問題解決や問題回避に不可欠な範囲を超えて行なうほとんどの行動)。

⑴組織市民行動の規定要因 スパイツミュラーSpitzmuller,M.ら(2008)によれば,組織市民行動を規定する要因として有力なものは,性格特性としての調和性と誠実性,職務満足感,公正感,組織コミットメント,ポジティブな感情が挙げられている。すなわち,組織市民行動を行ないやすいのは,性格的に調和性や誠実性が強い場合,職務満足感が高い場合,組織のしくみや手続きが公正だと評価される場合,自分が所属する組織に愛着を抱いている場合,気分が良い状態の場合である。

⑵組織市民行動の結果要因 組織市民行動を行ないやすい構成員は,一般的にいって自分の仕事に積極的で,業績評価も高い傾向にある。ポザコフPodsakoff,P.M.ら(2000)は,過去の研究結果から組織市民行動が同僚や管理者の生産性を向上させ,組織変化に適応する能力を増大させ,それらが最終的には組織の有効性を高めていると指摘した。

【性役割分業観】 性役割分業観とは,性に基づく役割分業が正当であるとする考え方をいう。伝統的性役割態度では,「男性は仕事,女性は家庭で家事や育児」といった役割分業が肯定される。伝統的な性役割分業観を否定する態度は,平等主義的性役割観とよばれる。これまで性役割分業観を測定する尺度が多く開発され,日本では鈴木淳子(1994)による平等主義的性役割態度スケール(SESRA)がある。近年,しだいに伝統的な性役割分業観を公に表明されることは少なくなったが,スウィムSwim,J.K.ら(1995)やトーガスTougas,F.ら(1995)によれば,それに代わって新性差別主義が登場した。これは,平等主義的な価値観は認めつつも,男女の生物学的な差異に基づき,性差別的態度を支持するというものである。新性差別主義の考え方をもつ人は,現代社会に公の性差別は存在しないにもかかわらず,男女の格差を解消する社会運動に対し不満をもち,女性が男性中心の職場に進出することに嫌悪感をもっている。
〔田中 堅一郎〕

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