インサイダー取引(読み)いんさいだーとりひき(英語表記)insider trading

翻訳|insider trading

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インサイダー取引」の意味・わかりやすい解説

インサイダー取引
いんさいだーとりひき
insider trading

証券市場の取引において、未公開の重要な内部情報を知りうる立場を利用して行う当該株式の不公正取引。内部者取引ともよぶ。証券市場における株価は、売買参加者が公開されている同質の情報を基に取引されて形成される。しかしながら企業の機密情報に直接に接しうる者や、その機会が多い企業役員(取締役、監査役)は立場を利用して容易に利益を獲得することが可能であり、そのことからこれら企業の重要情報を知りえない一般投資家は、十分に損害を被ることが考えられる。公開企業の重要情報はすべてに対して公平であるべきであり、情報を知りうる者のみが利益をあげることは、不公平で一種の詐欺的行為ともいうべきものである。

 アメリカにおけるインサイダー取引の法規制はきわめて厳しいものであるが、日本では、1987年(昭和62)タテホ化学工業の事件によって、1988年インサイダー取引の規制強化のための証券取引法改正が行われ、刑罰規定を設けてインサイダー取引が禁止された。インサイダー取引に対しては法規制のほかに、証券取引所や証券諸団体による自主規制も設けられ、取引所による規制としては、タイムリー・ディスクロージャー適時開示)によって情報公開を義務づけたり、証券団体では証券従事員の職務上知りえた情報の利用の制限などを義務として課している。

[桶田 篤]

法改正

1994年(平成6)の証券取引法の改正では、商法において自己株式取得規制が緩和されたことを受けインサイダー取引規制が強化され、1997年の法改正では罰則が強化された。なお2007年に証券取引法を改正した金融商品取引法が施行され、現在インサイダー取引は同法において規制(166条・167条)されることになり、それに伴って、不公正な取引を防止するため、罰則が強化されている。なお課徴金については、従来通り課されることになっている。

[前田拓生]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インサイダー取引」の意味・わかりやすい解説

インサイダー取引
インサイダーとりひき
insider trading

企業役員や主要株主などの企業関係者が,職務や地位によって知りえた,一般には未開示の内部情報を利用してその企業の株式を売買すること。インサイダー(内部者)取引が行なわれると,株価の形成がゆがめられて一般投資家が不利益を被り,証券市場の公正性・健全性がそこなわれるため,各国で厳しく規制されている。日本では 1989年4月に施行された改正証券取引法で規制が大幅に強化された。1999年と 2001年にも,商法改正にあわせてインサイダー取引の規制対象となる「重要事実」(株価に重要な影響を与える未開示の内部情報)の追加が行なわれ,さらに証券取引法の抜本的改正で 2006年に制定された金融商品取引法もインサイダー取引規制を引き継いだ。しかし,その後もインサイダー取引があとを絶たず,2008年の同法改正では違反行為に課される課徴金制度を厳格化し,課徴金の水準を引き上げた。監視機関は証券取引等監視委員会。規制対象となる重要事実とは,株式の発行,合併,新製品の商品化など。インサイダーとは,企業の役員,従業員や主要株主,またこれらから情報の伝達を受けた者(証券会社役職員,報道関係者など)と定義される。アメリカ合衆国では 1961年から証券取引委員会 SECが監視や捜査活動を行なってきたが,特に 1986年のボウスキー事件などを契機に規制が強化された。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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