日本大百科全書(ニッポニカ) 「結婚十五のたのしみ」の意味・わかりやすい解説
結婚十五のたのしみ
けっこんじゅうごのたのしみ
Les Quinze joyes (joies) de mariage
フランス中世末期、たぶん1420年前後に書かれた家庭ならびに結婚への強烈な風刺の物語。作者不詳、ただし家庭生活の経験をもつ聖職者であろうことが考えられる。作者は独身主義者で、あらゆる束縛から離れて自由であることを人生最大の喜びとする。彼は結婚を人生の牢獄(ろうごく)だと考える。ある青年が女性を求めて結婚する。と、やがて出産、育児の煩わしさ、女房のはで好み、その浮気、気まぐれと、あらゆる種類の不都合がわき出てきて、夫はきりきり舞いをさせられる。そうした自由を束縛する一つ一つを取り上げて、作者は克明な描写をもって、結婚生活の楽しさ、実は苦しみを描き出す。たとえば、新婚早々まだ家の調度も十分には整っていないのに、妻から新調の晴れ着を買わされる話(第1話)。妻の妊娠で、滋養物を食べさせるために、夫は身を粉にして稼ぐのに、妊婦は里方の人々を集めてぜいたく三昧(ざんまい)をする話(第3話)。子供の出産のときに願を掛け、その願いがかなった礼参りの旅では、夫がきりきり舞いをさせられるのに、妻はしたいほうだいをする話(第8話)。そういう女性への憎しみ、家庭と結婚の嫌悪をみると、確かに作者の経験がそこに語られているか、さもなくばたぐいまれな鋭い観察眼の持ち主であったことがうかがえる。話の終わりに繰り返される、家庭という魚簗(うおやな)に収まって「あわれその生涯を終えるであろう」ということばには、なにか呪(のろ)いに似たものを感じさせられる。ちなみに「十五のたのしみ」は、聖書の「十五の前兆」をもじったもの。
[佐藤輝夫]