結縄(読み)ケツジョウ

デジタル大辞泉 「結縄」の意味・読み・例文・類語

けつ‐じょう【結縄】

古く、文字のなかった時代に、縄の結び方で意思を通じ合い、記憶の便としたこと。中国・エジプト・中南米・ハワイなどで用いられた。沖縄で近代まで用いられていた藁算わらさんもその一つ。

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精選版 日本国語大辞典 「結縄」の意味・読み・例文・類語

けつ‐じょう【結縄】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 縄を結ぶこと。
    1. [初出の実例]「命一力北庭之竹籬〈略〉結縄皆応手也」(出典碧山日録‐長祿四年(1460)正月一〇日)
  3. 古く、文字がなかった時代に、縄の結び方で互いに意を通じあい、記憶の便としたこと。中国、チベット、エジプトなどで行なわれ、ペルー、ハワイ、沖縄にはその風が近代まで残っていた。結縄文字
    1. [初出の実例]「問、上古淳朴、唯有結縄。中葉澆醨、始造書契」(出典:経国集(827)二〇・紀真象対策文・策問)
    2. [その他の文献]〔易経‐繋辞下〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「結縄」の意味・わかりやすい解説

結縄
けつじょう

縄およびその結びによってものを記録する一種の文字。中国古代に、文字のかわりに縄を結んで政令符号としたことを「結縄の政(まつりごと)」とよんだというが、文字のない文化において、この数の表記法が用いられた例は、南北アメリカ、オーストラリア、日本などで知られている。

増田義郎

沖縄の結縄

沖縄では、藁算(わらさん)またはサンとよばれる結縄による数字の表記があり、おそらく旧藩時代以前から用いられていたらしいが、農民に対する禁字政策が行われたため、島津藩支配下の沖縄の民衆の間で広く用いられた。サンは藁、藺(い)、タコノキの気根などを材料としてつくられた。そのおもな機能は数字の記録にあり、人口、貢納額、材木の大きさ、家畜の頭数などが示された。とくに人頭税が課せられた旧藩時代から、それが廃止された1903年(明治36)ごろまで、納税の告知や徴税吏の記録として広く使用されたが、民衆の側からすれば、役人による不正徴収を防止するため、サンによって税額を記録し、蔵元原簿と照合させる意味もあった。サンの方法は島によってまちまちだったが、直列型と束ね型の2種類があり、また、1、10、100、1000などを表すのに縄や藁の先端を輪で結ぶなどの方法は共通していた(図A)。サンは今日では廃れて用いられないが、那覇などの質屋で、質物をくくる紐(ひも)に結び目をつくり、質入れ月や金高を記録する方法は第二次世界大戦前まで行われた。また八重山(やえやま)やその離島では、藁算の儀礼的使用が残っている。すなわち、御算(うたき)に奉納米とともに氏子の数を縄に結んで供えるのである。

[増田義郎]

南アメリカの結縄

南アメリカの中央アンデス地方に栄えたインカ文化(15~16世紀初め)でも結縄は広く用いられた。結縄はキープquipu, khipuとよばれ、先インカ期にも使用例があって、民衆間で穀類の収穫高や家畜の頭数などを表すのに使われていたらしいが、インカ帝国という一大組織が成立するに及んでその使用が複雑化し、キープカマヨックkhipu kamayoq, quipu camayocとよばれる専門家集団が形成されて、国家機関で必要とする統計記録を管理するようになった。キープに用いられた縄は、綿または羊毛を撚(よ)り合わせてつくった。通常、一端は結び、他の端は輪状にする。まず太い縄を用意し、より細い縄の輪状の端を図Bの(1)のように結び付ける。インカ文化においては厳密な十進法が用いられ、細い縄の結び目の数によって1から9までの数が表され(図Bの(2))、位取りによって10以上の数が表記された。通常は太縄からもっとも遠い結び目が1位の数を表し、近づくにつれ10位、100位の数が表された。また、いくつかの細縄に別の縄の端の輪をからげて枝をつくった(図Bの(3))。これは、からげた細縄全部が示す数の合計を表す(図Bの(4))。これら上下の細縄には、必要に応じて補助縄をつけた。そこで全体として、キープの数字表記システムは、図Bの(5)のようにテーブル化できる。このようにして、1本の太縄に数本から数百本の細縄がつけられ、さらに細縄は着色されて、さまざまの種類の統計が記録された。着色がどのような意味をもっていたのかは不明である。何人かのスペイン人記録者や学者がそれについて言及し、たとえば黄色は金、白は銀、緑は戦士を表す、などといっているが、信憑(しんぴょう)性は薄い。また、ある記録者によると、キープは数字表記だけでなく、歴史的な事件を記録するための補助手段としても使われたという。キープカマヨックはスペイン植民地時代まで残存したが、やがて消滅した。しかし高原地方の牧民、農民の間では、キープは20世紀まで使用され続けた。

[増田義郎]

『M. & R. AsherCode of the Quipe (1981, Ann Arbor & R.)』


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改訂新版 世界大百科事典 「結縄」の意味・わかりやすい解説

結縄 (けつじょう)

縄の結びによって記憶や記録の手段にする,原始的な一種の記録法。文字をもたない未開社会にはしばしばこのような習慣があり,中国,日本,南北アメリカ,オーストラリアなどにそのなごりをとどめている。とくに古代ペルー(インカ帝国)のキープquipuと沖縄の藁算(わらざん)は有名である。インカにおけるキープは文字に代わる唯一の記録法で,これを使ってインカは自国の人口調査や統計,穀物倉庫の貯蔵量,軍隊の人数,採金の量などあらゆるものを記録し,統計をとって保存していた。キープが読めるのは〈キープ・カマヨ〉と呼ぶ特殊な階層だけであった。この専門家はそれぞれ宗教関係,土木工事関係,軍事関係,経済関係といった分野に分かれていて,それぞれが独自の方法でキープを作成し,それを解読した。キープの基本となるものは各種の紐の長さと色からなる羊毛製の細紐である。たとえば1mの主紐に直角に数十本から数百本の細い支紐を結び付ける。この細い支紐の特定の位置に結び目をつくることによって数字を表し,支紐の色によって内容を伝えるのである。黄金は黄色,軍隊は赤色,銀は白色,穀物は緑色の紐によって表された。1から9までの数字は図1のように結び目の数で表された。また桁は結び目のある位置によって表す方法と,もう一つは二重結びを10の位,三重結びを100の位,四重結びを1000の位で示す方法とがあった。

 沖縄では人頭税を課せられた旧藩時代から,それが廃止された1903年まで藁算(沖縄では〈サン〉と呼ぶ)によって納税事務に関してだけでなく,取引計算も行われ,また家族数,金額,出欠なども記帳された。農民に対して禁字制度が行われたために,藁算は民衆の間に広く普及した。材料は藁が主であったが,藁の乏しい地方では藺(い)やタコノキの気根などが用いられた。その表示方法は,数字を直列に並べるものと,並列に並べるものなど時代的変化が認められるが,基本的には数字の1を表示するのに結び目一つで表し,先端に結んだ〈輪結び〉は5を表す。また桁については枝の分岐によって区別され,縄の太い方が高位であることを表し,順次に太さを減じてゆき,最低位は稲茎の芯を使った。図2-aに示すものは収穫した穀物の量を表し,これは4俵(1石)7斗5升4合2勺8才を表示している。同じく図2-bに示すものは集会を催すときに人員を検査するために用いるものである。これはその村で15歳以上の者が何人いるかをあらかじめ調べておいてこれを図のように結縄しておくのである。図ではイ,ロ,ハの家には1人,ニの家には2人,ホの家には3人いることを示している。ヘの部分で藁を折り曲げているのは道路を示しているもので,トの家には1人いることを示している。そして集会の欠席者にはそれに相当する藁を結ぶのである。次に図3に示すものは首里の質屋で実際に使用していたもので,材料は藺草である。右部に五つ結んでいるのは,質入れ月の5月を示している。その左に結んでいるのは金額を表している。最初に一結びしてからこれを二つに割って一方を結び,しだいに細くなってゆく。この場合,第1の結びよりは,次の結びの方が桁が低くなってゆく。したがってこの図では123貫を表している。この場合に123貫なのかまたは12貫300なのかは,実際に質物をみて判断するのである。図の下方には質入れ衣類をその藺草で結んで質屋が保管しているようすを示している。
結び
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百科事典マイペディア 「結縄」の意味・わかりやすい解説

結縄【けつじょう】

縄の結びによって数量や文字を表示する方法。インカ帝国時代にはキープという結縄が数量の記録に用いられ,その専門家はキープ・カマヨク(キポカマヨ)と呼ばれ,特に納税事務の不可欠の手段であった。今日アメリカ・インディアンはアルファベットの結縄を伝える。古代中国にも〈結縄の政〉という言葉がある。沖縄では明治中期まで藁(わら),クバ(ビロウ)の葉などを結ぶ藁算を用いて数を記録した。
→関連項目結びロッパ(珞巴)族

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普及版 字通 「結縄」の読み・字形・画数・意味

【結縄】けつじよう

縄を結んで約とする。無文字の時代。〔易、辞伝下〕上古は結繩して治む。後世の人、之れに代ふるに書(文字・文書)を以てす。

字通「結」の項目を見る

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旺文社世界史事典 三訂版 「結縄」の解説

結縄
けつじょう

キープ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「結縄」の意味・わかりやすい解説

結縄
けつじょう

結縄文字」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の結縄の言及

【結び】より


[結びによる記録と伝達]
 文字のまだない時代には,木に刻んだ印と縄の結びが情報の伝達や記録に大きな役割を果たした。中国には〈結縄の政〉という言葉があり,周易の《繫辞》下伝には〈上古結縄而治,後世聖人易之以書契〉とあって,中国においても文字以前に〈結び〉による伝達方法のあったことを伝えている。一方,沖縄では第2次世界大戦中まで藁(わら)を用いた〈藁算〉が文字を知らない民衆の間で,数量の記録,計算,納税事務などの算法として使われていた。…

※「結縄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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