平安初期,827年(天長4)5月成立した勅撰第3漢詩集。20巻。書名は,〈文章は経国の大業,不朽の盛事〉という魏の文帝の〈典論・論文〉による。淳和天皇の勅を奉じ,良岑安世(よしみねのやすよ)が滋野(しげの)貞主,南淵弘貞,菅原清公ら数名とともに協議して編集したもの。体裁分類など《文選》を学ぶ。文武帝の707年(慶雲4)以来の詩数917,賦(ふ)17首のほか,序51,対策文38首を収め,作者178人に及ぶ。ただし現存本は,巻一(賦),巻十(楽府・梵門),巻十一・十三・十四(いずれも雑詠),巻二十(対策)の6巻にすぎない。しかし長句の賦を含み,官吏採用試験の際の奉試の詩や対策文を載せることは,先行の漢詩集にみえず,また唐人張志和の〈漁歌子〉の詩体を模倣した〈雑言・漁歌〉の詩群がみえることは実に進取的である。詩人の代表は嵯峨上皇で,また官人にも佳作が多く,平安初期までの漢詩文の成果は本集によって知ることができる。
執筆者:小島 憲之
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平安前期の漢詩文集。827年(天長4)、滋野貞主(しげののさだぬし)、良岑安世(よしみねのやすよ)、菅原清公(すがわらのきよきみ)らによって編纂撰進(へんさんせんしん)された。書名は魏(ぎ)の文帝の「典論」にある、「(文章は)経国之大業而不朽」による。もともと20巻だったが、現存するのは巻1「賦(ふ)」、巻10、11、13、14(以上、詩)、巻20「策(官吏登用試験の問題文)」の6巻。所載詩人の範囲を707年(慶雲4)までさかのぼらせて、作者178人、賦17首、詩917首、序51首、対策(官吏登用試験の答案)38首を撰(えら)び、同じ勅撰(ちょくせん)集である『凌雲集(りょううんしゅう)』や『文華秀麗集』に比べてずっと大規模なものとなった。嵯峨(さが)天皇、滋野貞主、菅原清公、小野岑守(みねもり)らが多く入集(にっしゅう)しているが、宮廷貴族と出自を異にする空海の詩が8首あることに注目される。
[金原 理]
平安初期の漢詩文集。20巻(巻1・10・11・13・14・20が現存)。827年(天長4)良岑安世(よしみねのやすよ)が淳和天皇の勅を奉じて南淵弘貞(みなぶちのひろさだ)・菅原清公(きよとも)らと撰進。「凌雲集」「文華秀麗集」につぐ第3の勅撰集。書名は魏(ぎ)の文帝の「典論」の「文章は経国の大業,不朽の盛事なり」にもとづく。収録作品の年代は,707年(慶雲4)から827年に及ぶ。先行する二つの勅撰集と異なり,詩のほか賦(ふ)・序・対策を収め,奈良時代以来の漢詩文の総集ともいえる。各巻の配列は,序に「人は爵をもって分かち,文は類をもって聚(あつ)む」とみえ,内容と作者の地位にもとづく。嵯峨天皇・石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)・淡海三船(おうみのみふね)・滋野貞主(しげののさだぬし)・空海らの作品を収録。「群書類従」所収。
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…勅撰漢詩集は,漢風謳歌の時代といわれる平安初期に,勅撰三集と総称される三つの集が編まれた。《凌雲新集》(《凌雲集》)1巻(814)は782年(延暦1)から33年間の作品をまとめた近代詞華集で,次いでこの集に漏れたものを含めて《文華秀麗集》3巻(818)が成り,さらに,707年(慶雲4)から約120年間の178人の作者,1000編余の作品を集めて《経国集》20巻(827)が王朝漢文学の一大集成として成った。王朝漢文学は,貞観~寛平期(859‐898)に黄金時代を迎えるが,なぜかそれ以後勅撰詩集は撰進されず,その役割を勅撰和歌集に譲る。…
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