改訂新版 世界大百科事典 「ロッパ族」の意味・わかりやすい解説
ロッパ(珞巴)族 (ロッパぞく)
Luò bā zú
中国のチベット自治区とインドとの国境地帯に居住する少数民族。人口は約2300人余(1990)。〈ロッパ〉というのはチベット族の彼らに対する呼称で〈南方人〉という意味であり,その自称は〈ボガエル〉〈ニエブン〉等居住地によって異なる。その言語はチベット・ビルマ語派に属し,少数の者はチベット語を話し,読むことができる。文字はないが,以前は刻木,結縄により意志を伝達していたという。1965年に単一民族として正式に認定された。以前は,ロッパ族は三大領主(チベット地方政府,貴族,ラマ教寺院)に支配され,悲惨な生活をしていたという。その社会は父系の親族組織であり,家庭は基本的には一夫一婦制の小家族であり,女性の地位は低く,財産は男子が相続した。ある一部の村落では,その系譜には父子連名制がみられるという。以前その婚姻は厳格な等級内婚制(自由人と奴隷という二つの等級内でそれぞれ結婚)であり,売買婚がさかんに行われていた。以前はロッパ族の生活水準は低く,ほとんどの地域では焼畑耕作の段階であった。現在は峡谷地帯で,裸麦,小麦,トウモロコシ,水稲,ソバを耕作し,狩猟,魚労も行っている。昔から高山峡谷地帯に居住していたロッパ族にとっては,狩猟は特に重要な生業の一つであり,男子は幼いときから弓の訓練を受け,射手としての腕は熟練したものである。ロッパ族は鬼神を信じ,病気にかかると巫師に頼んで占卜をして,駆鬼をする。現在は経済,文化が発達して旧習は改められているという。
執筆者:村井 信幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報