昔話。間接的に知った女に恋することを主題にした婚姻譚(たん)の一つ。竜宮からきた美しい女を妻にした男が、妻のそばを離れない。妻は自分の絵姿を描いて持たせ、仕事に行かせる。ある日、絵姿を風に飛ばされる。絵は殿様の城に落ちる。絵を見た殿様は、その女を妻にしたいと思い、家来に探させる。妻は別れるとき、夫に、物売りになって城に来いという。夫が城に物売りに行くと、それを聞いて、女が初めて笑う。喜んだ殿様は、物売りと衣服を取り替える。物売り姿の殿様は城から追い出され、夫は殿様になる。満野長者(まんのちょうじゃ)譚では、「炭焼き長者」と複合して後段をなし、その「絵姿女房」の部分は、古く、幸若舞(こうわかまい)の「烏帽子折(えぼしおり)」のなかにみえる。宗教芸人の由来譚になっている例もあり、芸人によって語り広められた時代もあったらしい。絵姿を飛ばす趣向は東アジアで発達しており、類話は、朝鮮、モンゴル、中国大陸の漢族、ミャオ族、パイ族、チベットにある。モンゴルの仏教説話集『シッディ・キュル』には、絵姿が髪の毛に変化しただけの話があり、この系統の類話はインドにも多い。全体の形式までは一致しないが、絵像などを見て恋する婚姻譚は、グリム兄弟の昔話集の「忠義なヨハネス」など、ヨーロッパにも多数分布している。
[小島瓔]
婚姻をテーマとした昔話の一つ。美しい女房の姿を描いた絵が風に飛ばされて殿様の手に入る。殿様はその女を強奪しようとして失敗する。ヨーロッパでは“美しい女房ゆえにねたまれる男”の話として知られている。同工異曲の話は世界的に分布し,女房を奪われた男が物売に扮装して城に入り,殿様を城から追い出してしまう〈物売型〉と,女房の力で殿様からの難題を克服する〈難題型〉とに二分される。絵姿や,百姓が殿様と衣装の交換をするという趣向は日本的ではなく,外国の輸入だとする説があるが,そうとも言いきれない。他人の絵姿や髪・着物などを所有する者はその人間を支配することができるという呪物信仰が話の背景にあるからである。女房が難題を克服するという点は,この女が尋常の女性ではないことを暗示し,この女の性格が,異類婚姻譚などと違った独自性を表している。
執筆者:花部 英雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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