継子いじめ譚(読み)ままこいじめたん

改訂新版 世界大百科事典 「継子いじめ譚」の意味・わかりやすい解説

継子いじめ譚 (ままこいじめたん)

継母にいじめられる子ども昔話は,日本には数が多い。しかし,神話段階には見当たらない。子どもが共同体母系家族に養育されていた時代から,妻が夫のもとへ移って暮らし,子どもを育てるようになる婚姻形態の変遷に応じて,登場してきたものであろう。継子の幸運な結末の話と悲惨な死の話の2系列がある。(1)継娘が山姥(やまうば)のくれた衣装で芝居に行き,殿様に見初められる,シンデレラそっくりの紅皿欠皿(べにざらかけざら)型,(2)殿様の前で歌をよみ比べて実子に勝つ皿皿山(さらさらやま)型,(3)継母にいじめられて盲目になった娘が,捜してきた父親の涙で開眼するお銀小銀型,(4)継母に手を切られるが,背中の児が川へ落ちそうになり助けようとした無意識の行為で,手が再生する手なし娘型,(5)追い出されて宿を借りた山姥に老婆の皮をかぶせられ,大家の下働きになるが美女とわかって,そこの嫁になる姥皮型,(6)底なし袋を持って栗拾いに出され,いっぱいにならず野宿するが,地蔵様に助けられて富を得る地蔵浄土の変形型,などは幸運な結末にいたる話の系列であり,(7)継母に殺されて鳥になる話,(8)墓に生えた竹で造った笛が継母の殺人を歌う話,(9)殺された娘の骨が歌を歌う話,(10)継母に釜ゆでにされるが父が復讐してくれる話,などは悲惨な結末の系列である。このうち(1)のシンデレラ型は,ヨーロッパや中国に広く分布する。(9)の歌う骨型もヨーロッパに多いが,姉妹間の嫉妬が殺すもので継親子の話ではない。継子いじめの話の文学作品の出現としては,《宇津保物語》の〈忠こそ〉の巻や,《落窪(おちくぼ)物語》が早い。中世になると,《住吉物語》《秋月物語》《鉢かづき》など神仏霊験譚と習合したものが続出した。これらは自由な空想の展開で,口承説話の型に束縛されていないが,《うば皮》という(5)の姥皮型の翻案物もある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の継子いじめ譚の言及

【米福粟福】より

…昔話。継子米福が継母とその実子粟福の虐待に耐えて,幸福な結婚に到達するまでを語る継子いじめ譚。継母は継子に水くみ,栗拾い,糸紡ぎ,麦つきなど苦労の多い労働を課すが,亡母の霊の加護によってきりぬける。…

【シンデレラ】より

…世界的に分布の広い継子話の女主人公の英語名。話の起源はオリエントと考えられている。フランスではシャルル・ペローが《昔々の物語ならびに教訓》(1697)に〈サンドリヨン〉の名で,口伝えの再話作品をのせ,ドイツでは《グリム童話集》21番に〈灰かぶり〉がある。口伝えの類話にも多様な変化と組合せがあるが,ほぼ次のような骨格をもつと考えられる。継娘が継母とその実子に虐待されるが,親切な動物が食物や贈物をくれる。…

【住吉物語】より

…継母は零落して死ぬ。典型的な継子いじめ譚であるが,実はそれを枠組みとして忍苦の男女が結婚に至る過程をこまやかに描こうとし,あわせて長谷観音の霊験を唱導した作である。室町時代に盛行した御伽草子の世界を先取りした趣があり,中世を通じて広い階層に流布した。…

【真間手児名】より

…今日,真間町に安産の神として手児奈堂に祭られ,いつも水をくんだという真間の井,男たちがやまず通ったという真間の継橋もある。この話,後世には継子(ままこ)いじめ譚と化したらしく,太宰春台《継橋記》には,結婚に反対する継母のせっかんを受けて投身した橋を継橋(ままはし),井を継井(ままのい)と名づけて継母の悪を懲らしめる記念とした,とある。〈葛飾の真間の手児名がありしかば真間の磯辺(おすひ)に波もとどろに〉(《万葉集》東歌)。…

※「継子いじめ譚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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