平安時代の物語。作者不詳。現存本は鎌倉初期の改作とするのが通説。流布本は上下2巻。実母を失った継子の姫君に求婚者が現れ,結婚の幸福が得られそうになるとそのつど継母が妨害する。たまりかねた姫君は実母の乳母(尼)を頼って住吉へ身を隠す。求婚者(少将)はほうぼうを探した末に住吉へ参籠して夢告を得,姫君と再会,ともに都へ帰って幸福な結婚生活を営む。継母は零落して死ぬ。典型的な継子いじめ譚であるが,実はそれを枠組みとして忍苦の男女が結婚に至る過程をこまやかに描こうとし,あわせて長谷観音の霊験を唱導した作である。室町時代に盛行した御伽草子の世界を先取りした趣があり,中世を通じて広い階層に流布した。そのため類例を見ないほどおびただしい異本を伴っている。一方,改作以前の〈古本住吉〉はその断簡すら現存しないが,10世紀末円融朝のころには成立していたとみられている。《落窪物語》に影響を与えたと思われる。また《源氏物語》のいわゆる〈玉鬘物語〉がこれに依拠したことは間違いあるまい。現存本も鎌倉期の物語への影響が指摘されるが,とくに御伽草子に対しては〈住吉系〉といわれるほど多くの継子物を生む直接の母胎となっている。
執筆者:友久 武文
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鎌倉時代に改作された物語。二巻。原作は平安時代の『枕草子(まくらのそうし)』『源氏物語』以前、10世紀末に成立したが、いまは伝わらない。継子(ままこ)いじめの物語の代表作で、時代にあわせて改変を受けながら読み継がれてきた作品である。粗筋は変わらないものの、本によって記事の出入りが多く、文章にも違いがある。中納言(ちゅうなごん)兼左衛門督(さえもんのかみ)の宮腹の姫君は求婚者の四位少将(しいのしょうしょう)を継母腹の妹に横取りされる。人違いと知った少将にふたたび求愛されるが、外聞をはばかって応ぜず、継母のたび重なる悪計を避けて住吉の尼君のもとに身を寄せる。少将は長谷寺(はせでら)で夢想を得て姫君を尋ねあて、妻として自邸に迎える。男君、女君が生まれ、袴着(はかまぎ)の祝いのときに姫君と中納言の父子再会がかない、継母の旧悪が暴露される。少将は関白、姫君は北の政所(まんどころ)、男君は元服して三位(さんみ)中将、女君は裳着(もぎ)ののち女御(にょうご)となって栄える。姫君に忠実に仕える乳母子(めのとご)の女房侍従(じじゅう)の活躍も見逃せない。
[三角洋一]
『桑原博史著『中世物語研究――住吉物語論考』(1967・二玄社)』
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