〈糸取り〉ともいう。1本の紐や糸を結んで輪を作り,手足を使って種々な形を作っていく遊び。1人でやる場合と2人で交互に受け渡す場合がある。英語ではstring figures(紐図形)と呼ばれるが,cat's cradle(猫の揺りかご)ともいう。この猫の揺りかごは,2人あやとりのことでもある。あやとりがいつごろ始まったかはわからないが,文明国よりは未開地にりっぱな作品が数多く残されている。あやとりの研究は19世紀末にA.C.ハッドンらイギリスの探検隊が,オーストラリアとパプア・ニューギニアの間のトレス海峡にある島々を調査したときに,多くのあやとりを収集したのが始まりである。以後,文化人類学の一分野として研究されており,1906年にアメリカのジェーンC.F.Jayneは,アメリカ・インディアンおよびミクロネシアのあやとり約100種を詳しく紹介した。その後多くの学者が各地のあやとりを収集したが,ハッドンの娘キャサリーンH.Kathleenがもっとも活発に活動,収集し,数冊の本にまとめている。第2次世界大戦後もオーストラリアのモードHonor Maudeによって研究は続けられ,ギルバート諸島,ナウル島などのオセアニア地域のあやとりが次々と紹介されている。そして現在までにアラスカ,南北アメリカ,アフリカ,そしてオーストラリアやパプア・ニューギニア,ニュージーランドを含むオセアニア等々のあやとりが収集され,その総数は約2000~3000種類に及ぶ。
日本のあやとりは現在までに約100種が収集されている。古い文献としては西鶴《諸艶大鑑》(1684)にあやとりの記述があり,山東京伝《小紋雅話》(1790)には上記〈猫の揺りかご〉と類似したあやとりの図形が描かれ,また鈴木春信は2人あやとりの浮世絵を残している。日本のあやとりは,他の地域では人差指を用いるところで中指を用いるという特殊性をもつ。ハワイのあやとりと多くの類似性があるが,その他の地域のあやとりとはあまり関連が認められない。あやとりは近代文明の侵入により滅びる傾向があり,現在,各地で急速に忘れられつつあるのでその収集と保存とが望まれる。
あやとりを糸の作る図形として見ると,図のような空間図形の一種となる。これらの図形は1本の糸を空間の中でいろいろとからませ,最後にその両端を結んで輪にしたときにできるもので,結び目と呼ばれている。あやとりは,aのように結んでいない結び目を作って,指で糸を入れかえて作られる図形であるから,どんなものでもほどくとaの結んでいない結び目に変えられてしまう。これに反してbは,ほどこうとしても糸を切らないかぎりbの結び目には戻らない。つまり結び目の理論から見ると,あやとりは本質的には結んでいない結び目なのである。結び目の理論は,位相幾何学の一分野として広く研究が進められている。
→結び
執筆者:野口 広
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