二次の正方行列,を一つ取り,平面のベクトル,に対して,と定める。fa(a)もまた平面のベクトルになるから,faは平面のベクトル全体の集合からそれ自身への写像である。ところで,任意のベクトルa,bと,任意のスカラーα,βについて,fa(αa+βb)=αfa(a)+βfa(b)となる。一般に体K上の線形空間V,W間の写像f:V→Wは,Vの任意の元a,bとKの任意の元α,βについて,f(αa+βb)=αf(a)+βf(b)であるという性質をもつとき線形写像であるといわれる。線形写像f:V→Wについて,Ker(f)={a∈V|f(a)=0},Im(f)={f(a)|a∈V}はそれぞれV,Wの線形部分空間になる。Ker(f)をfの核,Im(f)をfの像と呼び,Im(f)の次元をfの階数という。V,Wがともに有限次元であるとして,e1,……,enがVの,e1′,……,em′がWの基底とすると,Vの元aはと書ける。
と書けるから,となる。このようにして,線形写像fは(m,n)行列(αij)に対応する。fの階数は行列(αij)の階数にほかならない。二つの線形写像f:U→V,g:V→Wの合成gf:U→Wも線形写像である。f,gがそれぞれ行列A,Bに対応すれば,gfは行列の積BAが対応する。
執筆者:丸山 正樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
平面を自分自身に写す写像fが、直線を直線に写し、原点を原点に写すとき、すなわち直交座標系に関して、
f(x,y)=(ax+by,cx+dy)
(a,b,c,dは定数)
の形で表されるとき、fを平面の線形写像という。たとえば、原点の周りの角θの回転移動fは
f(x.y)
=(cosθ・x-sinθ・y,
sinθ・x+cosθ・y)
と表され、またx軸に関する対称移動gは
g(x,y)=(x,-y)
と表されるから、いずれも平面の線形写像である。しかし、平行移動は線形写像ではない。平面の線形写像は4個の定数a、b、c、dによって定まるので、これを2×2行列を用いて
と表すのが普通である。同様に、空間を平面に写す線形写像、あるいは直線を自分自身に写す線形写像などが考えられる。たとえば、変数yが変数xに比例しているという関係はcを定数としてy=cxと書けるから、これは直線を直線に写す線形写像とみなせる。あるいは、空間ベクトルA=(a,b,c)を一つ定めておき、任意の空間ベクトルX=(x,y,z)にXとAの内積ax+by+cz=f(X)を対応させる写像fは、空間を直線に写す線形写像である。
このように線形写像は、一つのベクトル空間Vをもう一つのベクトル空間Wに写す写像とみなすことができて、次のような性質をもっていることが、定義からすぐわかる。
(1)Vのすべての元X、Yに対して、
f(X+Y)=f(X)+f(Y)
(2)Vのすべての元Xとすべてのスカラーaに対して、
f(aX)=af(X)
これは、線形写像がベクトルの和とスカラー倍を変えないものであることを意味している。なお、ベクトル空間Vをベクトル空間Wに写す写像fが(1)、(2)の性質を満たすとき、fをVからWへの線形写像ということも多い。
[高木亮一]
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