練香(読み)ネリコウ

デジタル大辞泉 「練香」の意味・読み・例文・類語

ねり‐こう〔‐カウ〕【練(り)香/×煉り香】

麝香じゃこう沈香じんこうなどの粉末甲香をまぜ、蜜や糖などで練り合わせた香。合わせ香。合わせ薫物たきもの

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改訂新版 世界大百科事典 「練香」の意味・わかりやすい解説

練香 (ねりこう)

各種の香料を調合して練り合わせた焚香料(ふんこうりよう)をいう。薫物(たきもの),空薫物(そらだきもの)ともいう。薫物の製法は,平安末の長寛年間(1163-65),刑部卿範兼が勅命により抄集したという《薫集類抄》によれば,沈香(じんこう),麝香(じやこう)など植物質,動物質の40種以上の材料を薬研(やげん)で細粉とし,蜜,庶糖,厴(へた)(貝ぶた)の膠質梅干し,大豆汁,おねばなどで練り合わせたとあるが,材料を一時埋めておく日数や方角まで多くの秘法が伝承されたという。奈良時代仏教とともに日本に伝来した香木は,供香(そなえこう)として用いられ,儀式のおりには空薫(香)としても使用されたが,その範囲は宮廷に限られた。香道家は唐招提寺を創建した鑑真和上が日本における薫物の始祖と考えている。鑑真は来日の際,沈香木,麝香,甲香,甘松,竜脳,占糖,安息,桟香,零陵,青木,薫陸(くんろく)などを将来したと推察されている。これらは薫物の素材と,それらを練り合わせるための材料である。平安時代に香は趣味の対象となり,練香がくふうされ,住居や衣服にもたかれるに及んで,一木の沈香では得られない変化を楽しむこととなる。《源氏物語》をはじめ平安文学に登場する香はすべて練香である。優れた練香の秘法は高い教養のあかしであった。練香はその初期から梅花荷葉(かよう),侍従菊花落葉(らくよう),黒方(くろぼう)の6種に定まっていたという。このほかにも20余種の練香が伝えられているが,基本的には現在でもこの6種に代表される。練香を初めて合わせたのは閑院左大臣藤原冬嗣であるという。以後多くの宮廷人が季節の情趣を表現しようと秘法を競い,〈六種薫物〉の作製についても80種以上の調合処方が残されている。室町時代には薫物合(たきものあわせ)が御所を中心に催され,優品を競った。江戸時代にもその高雅な趣が愛好され,現代市販されている練香も堂上の秘法を官許されたものであるとされている。
香道
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