日本大百科全書(ニッポニカ) 「梅干し」の意味・わかりやすい解説
梅干し
うめぼし
ウメの実を塩漬けして天日で干したもの。通常、アカジソを使い、紅色に染められている。古来、食用とされてきたが、薬用としての利用も多く、また非常時の携帯食品としても重用されてきた。
[河野友美・大滝 緑]
歴史
梅干しのことが記されているのは平安中期であるが、おそらく、それ以前から梅干しはつくられていたと思われる。記録によれば、村上天皇(むらかみてんのう)(在位946~967)の病気が梅干しと昆布の茶で回復したというのが古い。鎌倉時代になると、武家の饗応(きょうおう)は「垸飯(椀飯)(おうばん)」で、これにクラゲ、打ちアワビとともに梅干し、塩、酢が添えられた。江戸時代には一般庶民にも用いられるようになった。しかし、江戸時代までの梅干しは、シソで着色されていなかった。
[河野友美・大滝 緑]
品種
梅干しに用いる品種は、肉厚で、皮が薄いものが一般によいとされている。また小梅も使用される。広く栽培されている白加賀が品質としてよいとされ、このほか、豊後(ぶんご)、養老、南高(なんこう)などがあり、神奈川県小田原では曙(あけぼの)が用いられる。小梅は信濃梅(しなのうめ)が用いられる。ウメの産地は和歌山県をはじめ、長野、群馬、栃木、山梨、神奈川、奈良、徳島、福岡県など全国で広く栽培されている。なお、近年は中国などからの輸入品が多く、これは肉が薄く皮が厚い。
[河野友美・大滝 緑]
漬け方
梅干し用の青ウメは、幾分黄みを帯びたもののほうが甘味があって味がよい。梅干しの漬け方は、各家、各地方などで伝統のものがあり、手法がいくらか異なることが多い。一般的な漬け方は、まずウメを一晩水に浸す。ウメは、いくらか黄色くなり、種離れがよくなる。水切り後、ウメの重量の20%前後の塩を、ウメと交互に容器に詰め、押し蓋(ぶた)をして重石(おもし)をのせる。4~5日すると澄んだ水(梅酢)があがるが、このまま3~4週間置く。
アカジソは葉を摘み取り、水洗いしたのち軽く塩でもみ、最初の汁は捨てる。さらに塩もみしたのち、梅酢を容器からとって加え、鮮紅色になった梅酢をもとの容器に戻す。塩もみしたアカジソの葉は、梅干しの容器の上部に入れ、もとのように蓋をして、夏の土用までそのまま置く。
土用の晴天の日を選び、梅を大きなざるか簀(す)の上に広げ、1粒ずつ離して並べ、昼夜通して三日三晩干す。夜露に当てることで、梅の実の肉質が柔らかくなる。なお、夜間、もとの梅酢の中にいったん戻し、翌日ふたたび干してもよい。雨には絶対にぬれないようにする。
干し上げた梅干しは、容器に梅とアカジソを交互に入れ、上から赤い梅酢を加え、中蓋をして軽く重石をし、口をきっちりと包み、冷暗所に保存する。半年くらいで味がなじみ食べられるようになるが、10年くらいは十分保存できる。
減塩梅干しは、塩分を2~4割減らし、かわりに焼酎(しょうちゅう)を加えるなどしてつくるが、カビが生えたり、腐敗したりしてうまくできないことが多い。
[河野友美・大滝 緑]
種類
アカジソを使用せず、白く塩を吹いた薄茶色の関東風梅干し、梅干しをアカジソの葉で巻き、さらにもう一度漬けた小田原のしそ巻き梅干し、かつお節をまぶした梅干しなど、いくつかの種類がある。また、産地ごとに、その地方の呼び名をつけた梅干しも多い。このほか干さないでつくる梅漬け、塩分を控え調味料を加えた調味梅干しなどもある。
[河野友美・大滝 緑]
成分と効用
梅干しの強い酸味はクエン酸によるもので、この酸が主体となり、効用がいろいろいわれている。しかし塩分が多いため、とりすぎには注意が必要である。
おもな効用としては、昔からいわれているものに、船酔い、車酔いによく、食欲を進め、夏の食あたりの防止、疲労回復や、その防止があげられる。いずれもクエン酸の効用とみてよい。鎌倉時代には武士の兵食として重視され、息切れの妙薬として重宝された。また酸味は、精神的ストレスの緩和に役だつため、スポーツの試合前や、テレビなどの出演前に、梅干しを口に入れる人もある。
[河野友美・大滝 緑]
利用
ウメを塩漬けにした際、しみ出してくる液体を梅酢といい、白梅酢は酢の一種として利用し、アカジソを加えた紅梅酢は紅色の酢漬けをつくるときに使う。梅びしおは、梅干しを裏漉(うらご)しにかけ、みりんで延ばしてつくる。すし、和(あ)え物に用いる。また、梅干しの肉をすり、裏漉しし、砂糖、みりん、しょうゆなどで延ばし、各種材料を和えたものを梅肉和えという。裏漉しの梅肉に砂糖、酒、だし汁などを加えて延ばした梅肉酢も利用する。このほか、イワシなど背の青い魚の煮物に梅干しを加えて味をよくしたり、梅干しそのものを塩抜きしたのち、てんぷらにする料理もある。梅干しの身と、細切りのしょうがを椀(わん)に入れ、熱いだし汁を注ぎ、少量のしょうゆを加えた梅干しの吸い物、小梅と昆布に熱湯を注いだ昆布茶(こぶちゃ)は、祝い膳(ぜん)などに用いられる。
[河野友美・大滝 緑]