ドイツの文豪シラーの最初の戯曲で、5幕からなる悲劇。シラー21歳のとき(1781)匿名で自費出版された。個人の自由を抑圧する因習的家父長制社会にあって、自我を貫いて生きる2人のまったく性格の異なる兄弟の反逆と背徳と贖罪(しょくざい)とを、大胆な表現と荒削りなタッチで描く。激しい自我主張と、生についての哲学的・宗教的煩悶(はんもん)が交錯し、一義的解釈の困難な意味深い内容が特色。
老モーア伯爵の長男カールは理想家肌で、荒くれたことの好きな熱血児。彼は無軌道な生活を悔いて、父あてに謝罪の手紙を送る。しかし家督相続権をねらう冷血、狡猾(こうかつ)な弟フランツはこれを握りつぶし、逆に勘当を宣告する父の偽手紙を兄に送る。カールは絶望し、愛を喪失した人間社会への報復を神にかわって行うために、仲間にそそのかされて盗賊団の首領となる。しかしのちに弟にだまされていたとわかり愕然(がくぜん)とする。兄の復讐(ふくしゅう)を恐れた弟は縊死(いし)する。己の罪深さを悟り、カールは法の裁きに身をゆだねる決意をする。1782年の初演に成功を収めて以来、ドイツでもっとも人気のある戯曲の一つとなっている。
[内藤克彦]
『久保栄訳『群盗』(岩波文庫)』▽『新関良三著『シラー戯曲研究・群盗』(1982・三修社)』
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…94年以降雑誌《ホーレン》の刊行などゲーテとの交友と協力がはじまる。 彼の作品を見ると,まず処女戯曲《群盗》(1781)と市民悲劇《たくらみと恋》(1784)は,激烈な言葉の躍動と緊迫した場面転換によって,〈シュトゥルム・ウント・ドラング〉の革命的情熱を鮮明に示している。青年期の戯曲にはほかに《フィエスコの反乱》(1783)がある。…
…劇作では,フランス古典主義演劇の形式を退けて,シェークスピアに範をとる多場面構成で,強烈な個性をもつ人物をもつ戯曲が求められた。ゲーテは史劇《ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン》(1773)によってその要望を満たし,70年代中葉にはほかにも注目すべき劇作が発表されたが,J.C.F.シラーの《群盗》あたりからこの運動は退潮した。ゲーテはワイマールに移ってから,しだいに古典主義的な立場をとり,ワイマール宮廷劇場の監督として様式の確立に腐心するようになった。…
…71年再度捕らえられ車裂きの刑に処せられた。その活動は,シラーの《群盗》成立の一つの背景をなす。【三宅 立】。…
…疾風怒濤派は,とくに劇文学において,〈三統一〉の法則を典型とする古典主義の〈法則の強制〉に反発し,啓蒙的な合理主義に対して感情の優位を主張して,シェークスピアを天才的で自由な劇作の典型として崇拝した。ゲーテの小論《シェークスピアの日に》やJ.レンツの《演劇覚書》にもその主張が見られ,ゲーテの《ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン》(1773),シラーの《群盗》(1781)はのちの各国のロマン派に影響を与えた。 一方,ゲーテ,シラーが古典主義的な完成期に向かうころに生まれたドイツのロマン派は,単純な感情優位の運動ではなく,合理と不合理を総合しようとしたもので,疾風怒濤に間々みられたような理性を排除しようとするものではなかった。…
※「群盗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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