義肢の一つで,切断された手の補充を目的として使用される。手の機能はきわめて複雑であるのに対し,義手の機能はかなり低い。その理由は,手の各関節運動のコントロールには多数の中枢神経細胞がこれに関与しているのに,義手の場合にはコントロールの種類が限られてしまうためである。切断部位が上位になるほど機能障害は大となり,義手を用いてのコントロールも困難度が増してくる。義手の名称も切断レベルによって異なっており,前腕義手や上腕義手,肩関節離断用義手などがある。ただ一般に切断者の生活を観察すると,両上肢の切断であれば別であるが,片側切断の場合には残った側の手を用いて日常の生活はほとんど可能であるために,義手をあまり使用していないようである。そこで切断側には形態の復元を主とした装飾用義手を用いているものが非常に多い。しかしながら,近年リハビリテーション医療の進展によって,新しい切断者は機能のある義手の着用を試みるようになった。これは,装着者の運動中枢以下を訓練によってプログラミングするには切断後なるたけ早期に開始することが望ましいからであり,義手の操作を反射運動にまで仕上げなければ実用性はないので,義手装着の訓練には相当の期間を必要とするからである。
最近ようやく動力式義手が市場に現れはじめた。これは外部動力をもった義手であるが,動力としては電池と小型電動機により,指の開閉とかひじの屈曲,手関節の回旋運動ができるようにしたものである。これを動かすには切断者の残った筋肉活動を利用するものが多い。皮膚の表面に電極を置いて,筋収縮時に発生する筋肉の活動電位を増幅してスイッチ動作をさせるものもある。しかしこれにも限度があり,手の多種類の動作をすべて動力化することは困難である。今後はマイクロコンピューターを組み込んだ義手が普及すると思われる。
執筆者:岩倉 博光 ギリシア神話には,肩の骨をなくした神々の寵児(ちようじ)ペロプスにゼウスの娘クロトが象牙の肩を作ったという話があり,正確には義手とはいえないとしても,義手使用の歴史の古さをしのばせる。本格的なものでは,16世紀ドイツの騎士で農民戦争の英雄としてゲーテの戯曲のモデルともされたベルリヒンゲンのゲッツが鉄製の義手を用いたことが知られ,彼はそのため〈鉄手のゲッツ〉と呼ばれた。義足と同様に義手も戦傷者救済の目的にそって大きく発展し,第2次大戦時にはアメリカで手先が開閉できる能動義手も開発されるに至った。手先が鉤(かぎ)状になった義手は武器として使用することも可能で,J.バリー作《ピーターとウェンディ》に登場するフック船長のように,文学作品などではしばしば悪役と結びつけられる。
→義肢
執筆者:荒俣 宏
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…年齢層も欧米に比して若年であるので,リハビリテーションが比較的容易であるともいえる。義手,義足の問題については,上肢と下肢とで内容が大いに異なっている。まず上肢切断者について述べると,手関節以上のレベルにおける切断者の数は少なく,また義手を装着して訓練を行っても,これを常時用いるとは限らない。…
※「義手」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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