日本大百科全書(ニッポニカ) 「高齢社会対策基本法」の意味・わかりやすい解説
高齢社会対策基本法
こうれいしゃかいたいさくきほんほう
日本における高齢社会対策にかかわる基本理念とその基本となる事項を定め、経済社会の健全な発展および国民生活の安定と向上を図ることを目的とする法律(平成7年法律第129号)。
国はこの法律に基づき、内閣府に高齢社会対策会議を設置、「高齢社会対策大綱」案を作成し、関係行政機関相互の調整を行って高齢社会対策の実施を推進する。また、地方公共団体は国と協力しつつ、当該地域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、実施する責務を有するとされている。
[川村匡由]
沿革
1995年(平成7)11月、議員立法によって制定、同12月に施行された。これを受け、高齢社会対策大綱は翌1996年に閣議決定されたのち、2001年(平成13)に改定された。しかし、2007年以降、団塊の世代が毎年、大量に定年退職する一方、経済のグルーバル化や長引く円高・デフレ不況で財政が逼迫(ひっぱく)しているため、2012年9月、大綱が11年ぶりに閣議決定によって改定された。
[川村匡由]
基本的施策
本法の基本的施策として、次のようなことが規定されている。
〔1〕就業および所得(9条)(1)高齢者がその意欲と能力に応じて就業することができる多様な機会を確保し、および勤労者が長期にわたる職業生活を通じて職業能力を開発し、高齢期までその能力を発揮することができる施策を講ずる。(2)公的年金制度について雇用との連携を図りつつ適正な給付水準を確保する。(3)国民の自主的な努力による資産の形成等を支援する。
〔2〕健康および福祉(10条)(1)国民が生涯にわたって自らの健康の保持増進に努めることができるよう、総合的な施策を講ずる。(2)地域における保健および医療ならびに福祉の相互の有機的な連携を図りつつ適正な保健医療サービス、および福祉サービスを総合的に提供する体制の整備を図るとともに、民間事業者が提供する保健医療サービスおよび福祉サービスについて健全な育成および活用を図る。(3)適切な介護のサービスを受けることができる基盤の整備を推進する。
〔3〕学習および社会参加(11条)(1)生涯学習の機会を確保する。(2)高齢者の社会的活動への参加を促進し、およびボランティア活動の基盤を整備する。
〔4〕生活環境(12条)(1)高齢者に適した住宅等の整備を促進し、および高齢者のための住宅を確保し、ならびに高齢者の円滑な利用に配慮された公共的施設の整備を促進する。(2)高齢者の交通の安全を確保するとともに、高齢者を犯罪の被害、災害等から保護する体制を整備する。
〔5〕調査研究等の推進(13条)高齢者に特有の疾病の予防および治療についての調査研究、福祉用具についての研究開発等を推進する。
2012年(平成24)の高齢社会対策大綱の改定では「人生90年時代」を掲げ、健康で充実した高齢期を実現するため、高齢期の健康管理に加え、仕事と育児、介護、自己啓発、地域活動などとのバランスが重要であるとした。しかも、その基本的施策も高齢者に限定するのではなく、若年と女性の就労や子育て施策を進め、すべての国民が世代を超えて経済活動に参加できる社会づくりに取り組むとしている。
また、初めて数値目標が導入され、60~64歳の高齢者の就業率は2011年時点で57.3%を2020年には63%に、「新しい公共」への参加の割合は2010年時点で26%を2020年には50%に、不特定多数の者等が利用する一定の建築物のバリアフリー化率は2010年時点で48%を2020年には60%に、第1子出産前後の女性の継続就業率は2010年時点で38%を2020年には55%に、それぞれ引き上げることなどが盛り込まれた。
[川村匡由]
課題
高齢社会対策大綱は今後、経済・社会情勢の変化などを踏まえ、おおむね5年をめどに、必要があると認めたときは見直されることになっている。当面は、社会保障制度改革国民会議における「社会保障と税の一体改革」をめぐる論議のなかで、所得の再分配による若年世代との世代間格差、少子化社会対策基本法との整合性の確保、「縦割り」行政の是正による国民生活優先の「新しい公共」の具体化、および団塊の世代の社会参加による地域活性化などが課題であろう。
[川村匡由]
『川村匡由著『人生100年"超"サバイバル法』(2010・久美出版)』▽『嵯峨座晴夫著『人口学から見た少子高齢社会』(2012・佼成出版社)』▽『川村匡由著『団塊世代の地域デビュー』(2012・みらい)』▽『内閣府編『高齢社会白書 平成24年版』(2012・印刷通販)』