霊は一般に超自然的な働きをもち,特定の宗教であるなしにかかわらず精神や身体に働きかけて,これに生命と特殊な力とを付与するものと考えられた。霊の働きはふつう宗教と共同体とに制約され,霊能者はその中でしか生まれないと見られるが,その制約と価値づけを超えるのが霊の特質でもあるので,非論理(パラロジカル)であるだけでなく,悪霊ともいっしょになって働くのである。キリスト教では霊の人格性と聖性を強調して〈聖霊〉と呼び,三位一体のうちの一位格とする。したがって聖霊の働きはたんに突発的なものや奇跡・超能力のたぐいではなく,神の意志の統一を示し,罪の赦(ゆる)しと希望を与え,〈神の国〉へと教会を導くものとされる。《ヨハネによる福音書》14章では,聖霊はイエスが去ったあと教団に与えられ,〈パラクレトス(助け主)〉としてこれを導くといわれ,《使徒行伝》2章では,イエスの昇天後50日目に聖霊が各自に与えられて教団をつくったといわれている(ペンテコステ)。これらによると,聖霊は教団にイエスとの同時性を与え,しかも新しい現実をつくるのである。
この理解は旧約聖書でも同様で,《詩篇》51編では聖霊は罪の赦しの〈正しい霊〉であり,同時に〈新しい霊〉〈自由の霊〉と呼ばれている。旧約聖書は聖霊を語ることが少ないが,それは〈出エジプト〉が神の直接の行為とされ,エルサレム神殿には全能の神が現在すると考えられていたからである。そこで聖霊の降臨は,後期の預言者により,第2の出エジプトなりメシアの到来なりにおける終末的救済として語られた。このように聖霊のできごとが歴史を超えているとともに歴史的・人格的核をもつとされたことは,キリスト教における霊の理解の特徴である。それゆえ,パウロは《コリント人への第2の手紙》3章6節で律法と福音の相違を〈文字と霊〉の対立で表したが,グノーシス的なマルキオンのように旧約律法を悪霊のしわざとはいわなかった。パウロはまた霊の賜物の多様性を認め,異言や病気の癒(いや)しもその一つとしたが,愛をもって最大のものとし,これを教団における終末待望の歌の主題とした(《コリント人への第1の手紙》12~13)。
→三位一体
執筆者:泉 治典
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キリスト教における三位(さんみ)一体論の第三位格。父なる神、子なる神と本質を同じくし、三者で一体を形成すると信じられている。『旧約聖書』では「霊」にあたるヘブライ語は「ルーアハ」ruah.であるが、これは本来神の「息」あるいは「風」を意味し、人間の生命原理とみなされている。『新約聖書』ではギリシア語の「プネウマ」がそれにあたるが、霊は神の力そのものであり、しばしば黙示文学にみられるような超自然的幻想を呼び起こす力も、霊の作用に数えられる。福音書(ふくいんしょ)記者たちは、イエスを神の霊に満たされた人として表現し、イエスのなかに、悪霊に憑(つ)かれた者をたちどころに癒(いや)す驚異的な霊力を認めている。「霊の人」が原始キリスト教会において特別な意味を担っていたことは、「使徒行伝(ぎょうでん)」や「パウロの手紙」を通して明らかである。
[山形孝夫]
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