職業適性(読み)しょくぎょうてきせい(英語表記)vocational aptitude

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

青年や成人の職業指導や採用,配置転換の基礎資料として評価される適性。先天的な特殊能力だけでなく習得した技能をも含め,体格,体力,感覚能,作業能,知能,性格,興味などによって総合的に判定される。社会条件の変化や技術の進歩によって職務が変るので一定の職業に一定の適性があるというわけではない。 (→職務分析 )

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世界大百科事典 第2版の解説

ある職業や仕事に〈向いている(向いていない)〉〈適性がある(ない)〉という言い方がされる。適性があれば,その仕事の覚えは速いし,できばえもよいし,さらには楽しく満足してその仕事に取り組める,という将来の状況が期待される。適性がない場合は当然その逆になる。たとえば自動車教習所には運転適性検査が用意されているが,これは,いま車の運転ができるかどうかでなく,これから運転の技能を容易に習得できるかどうかをみようとするものである。

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最新 心理学事典の解説

職業適性は,働く人の職業・職務との適合性,あるいは組織・職場の環境,マネジメントのあり方,文化・価値などへの適応可能性を表わす概念である。もともとは20世紀前半の近代的産業の興隆を背景にして必要となった概念で,機械操作における個人の優劣から個性と職務との適合性が研究されたことに始まる。産業心理学草創期の一つの研究テーマであるが,後に適性心理学として体系化も試みられ,その後も一貫して重要な視点でありつづけている。

【適性概念の多様性】 適性は,組織の人材マネジメントにおいては,採用選考,異動・配置,昇進・昇格など人材の適否や処遇の是非を検討する際のポイントとなる。一方,働く個人においては,進路の選択や自己開発の努力など,職業を通じた自己実現,生活設計の検討ポイントとなる。また,職業選択を支援するカウンセリングの場合でも,診断や自己分析支援の過程で検討ポイントとなる。さらに,個人が必要とされる特性を保持しているかのみでなく,必要とされる職務遂行能力の獲得可能性,予見性を判断するポイントになることもある。

 いずれにおいても,個性の側面は,能力・スキルに重心が置かれる場合と,性格的,興味的,態度的な側面も含めて全人格的視野でとらえられる場合とがみられる。概して,アメリカでは能力・スキルに重心が置かれ,日本では全人格的にとらえられる傾向がある。このように適性の概念は,文脈によって多様な意味をもって用いられるので,それぞれの文脈にしたがってその意味を特定することが求められる。

 適性と類似の概念であるコンピテンシーcompetencyは,アメリカで1970年代以降研究され,日本にも移入されて1990年代以降には広く利用されるようになった。コンピテンシーは適性以上に現実の職務との適合性を重視して実践的にアプローチされる。また,性格的な資質の他,動機,情緒なども含めた複合的,包括的な概念である点で適性と性質を異にする。

【適性の測定・診断の方法】 適性の概念に個性と職業・職務との適合性が含まれることから,その測定と診断に際しては個性の情報のみでなく,職業や職務の要件,すなわち求められる能力,性格,興味・指向などの個性の側面を特定し,その期待水準を事前に分析する必要がある。また,組織文化風土などの組織特性に照らして適応しやすい個性の特定が必要となる。それらは観察法,調査法などの心理学的な手法によって分析されたうえで,関連する心理尺度が開発され測定結果の診断法が構想される。

 職業適性の測定や診断には,認知的能力や性格特性,興味・指向特性にかかわる心理尺度が主に利用される。また,測定結果の利用に際しては,当事者が利用ノウハウを経験的に蓄えたり,人事コンサルタントの支援のもとで展開したりする。個人のキャリア形成支援のカウンセリングに利用される場合は,カウンセラーによる解説や当人との協働によって解釈が進められる。

【適性検査aptitude test】 職業適性の主要な測定・診断のツールは測定される個性の側面により,能力適性検査,性格適性検査,興味・指向検査などに分類される。これらを複合的に組み合わされたツールは,総合適性検査とよばれる。また,適用目的別に,選抜用検査,育成・支援用検査に分類することもできる。

 能力に焦点が当てられた適性検査として,厚生労働省の一般職業適性検査general aptitude test battery(GATB)が挙げられる。戦後の復興期にアメリカの技術が移入され,企業などの採用選考,配置転換に適用されたり,職業選択を指導・支援する際の指導資料としても利用されたりしている。汎用的な職務能力,および特殊な能力・スキルの両面に対応する適性検査で,12の下位検査,尺度で構成され,筆記検査形式により認知的な能力が測定されるほか,簡単な作業をさせる器具検査形式による知覚的・運動的な能力も測定される。

 興味・指向を中心にして構成された個人のキャリア形成支援を主目的とした適性検査には,職業興味検査vocational preference inventory(VPI)が挙げられる。アメリカにおけるホランドHolland,J.L.の職業パーソナリティ理論を基にした適性検査で,広く世界的に翻案されているが,その日本版である。職業と職業興味のいずれも「現実的(R)」,「研究的(I)」,「芸術的(A)」,「社会的(S)」,「企業的(E)」,「慣習的(C)」の六つのカテゴリーをもって適合性が診断される。質問紙法による形式であるが,160の職業の名称を提示して興味関心の有無を問う特殊な方式が特徴となっている。

 これらのほか多様なツールが研究開発され,採用選考,異動・配置,昇進・昇格選考,教育研修などの人材マネジメント,あるいはカウンセリングに適用されている。これらは,主に筆記検査方式で提供されるが,心理測定技術とコンピュータ技術の進展を背景にして,コンピュータを利用した実施方式computer based testing(CBT)も用いられている。2000年ころから実用化が進み,テストセンターと称する各種のCBTを受験するための施設が整備されるに及んで広く浸透している。

 また,適性検査の枠を超えて,職業情報の提供やキャリア設計を支援する技術も実用化されている。computer assisted career guidance systems(CACGs)とよばれるCBTが拡張されたシステムも展開されている。コンピュータによって適性検査を受験し,その場で測定結果がフィードバックされて適性の自己診断をするが,それにとどまらず,測定結果に基づいて必要な職業情報の検索やキャリア計画の検討などをコンピュータを受験者自身で操作しながら進める方式である。適性検査は,心理学的な尺度やツールであり,学術的な知見に基づいた開発と適用が展開されており,心理測定論における基本的な信頼性reliability,妥当性validityなどの視点から注意を払いながら展開されるべきものである。とくに標準版が提供される場合は,それらの心理学的な検証結果が通常利用者に提供されており,利用者は測定の安定性や利用にわたる全体の展開プロセスの適切さを専門的な見地からモニターしながら利用すべきものであろう。 →キャリア発達 →信頼性 →妥当性 →テスト
〔二村 英幸〕

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