生産の機械化,工場生産制の発展に伴う生産組織の規模拡大は,労働過程の分業・協業・専門化を進展させ,その結果,組織的な生産に対する個々の労働者の貢献とそれに見合った成果配分の判断基準は,手工業的・生業的な労働形態が少なくなるにつれてあいまいになってきた。こうしたなかで,経営体の人事・労務管理の基本単位として登場してきたのが職務jobという概念である。当時(1900年代初頭)の工場管理は職長に全権が集中し,採用・解雇や賃率の設定が恣意的に行われていたが,その現状を科学的に分析し,大量生産方式による大規模経営の管理に原則を与えたのは,F.W.テーラーである。彼の提唱する科学的管理法の手法は,同時代の能率技師であったF.B.ギルブレスやその後継者によって生産工学的な管理技法に展開されていった。職務分析もその系列に属する。しかし,職務分析で入手する職務関連情報は,企業組織内の人事・労務管理に必要とされるばかりではなく,職業教育行政,労働行政あるいは職業指導・紹介サービスの実務家や雇用職業の研究者にとっても不可欠である。したがって,この職務分析の方法は,その結果の利用目的によって,職務分析の視点,分析項目の精粗,データ収集の方法もさまざまなものが存在しうる。とはいえ,普通一般に行われている職務分析は差異よりも共通点のほうが多い。
分析目的に関しては,(1)合理的な分業・協業を可能にする組織管理への利用,(2)定員管理への利用,(3)従業員の採用・配置・異動・昇進など雇用管理への利用,(4)教育必要点の発見,(5)実績考課や能力・適性考課の要素・基準の決定など人事考課への利用,(6)企業内の個々の職務の価値の相対的序列を決定し,それに基づく賃金配分の合理的な基準を確立する職務評価への利用,などがある。アメリカの労働省は,職業指導・職業紹介業務の原典である《職業辞典》を世界に先駆けて作成したが,その際第1次大戦から第2次大戦にかけてのさまざまな職務分析の発展と経験の成果を取り入れ,《職務分析手引Training and Reference Manual for Job Analysis》(1944)を発表し,その中で職務分析を次のように定義している。〈観察と詳細な面接質問によって,特定職務の性質を明らかにし,重要な情報を漏れなく報告する手続をいう。すなわち,職務に含まれる課業,一人前の従業員になるために必要な熟練,知識,能力,責任ならびにその職務を他の職務から区別するところのものを明らかにすることである〉。
そこで情報項目としては,(1)分課組織図,作業系統図,職務一覧の作成,(2)課業・責任の分担範囲の確定,(3)作業者は何を,何のため,どのようなやり方でしているか,(4)それにはどのような技能・知識が必要か,(5)以上を総括してその職務を他の職務から区別する作業者の所要特質や資格要件は何か,こうしたことの判断できる情報を入手する。このようにして入手した情報は,有機的に関連づけられて作業内容を中心に記述した〈職務記述書job description〉と,職務の権限,資格要件,執務基準,技能水準などの他の職務との比較要素を中心に詳細に記述した〈職務明細書job specification〉とにまとめられるのが普通である。そのほか,二次加工されて職務分類表,職業内容解説と職業分類表から構成される〈職業辞典〉,その他さまざまな形の職業情報資料にも編集される。
執筆者:片岡 博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
組織のなかで1人の構成員が分担し遂行する仕事の全体を職務、人事管理や組織管理の基礎資料とするために職務の内容を分析することを職務分析という。各職務について明らかにすべき項目は、(1)職務内容(目的、概要、遂行の方法と手順)、(2)労働負担(労働の強度・密度)、(3)労働環境(寒暑、明暗、乾湿、静騒、粉塵(ふんじん)・ガス・震動等の特殊条件)、(4)危険災害(感電、爆発、火災、高所、災害率、職業病罹病(りびょう)率)、(5)職務要件(体力、知識、経験、資格、個性)、(6)結果責任(職務を遂行しなかった場合の人的・物的損害の程度、制裁)、(7)指導責任(後進者育成の内容と必要)、(8)監督責任(監督者による指揮・監督の内容と程度)、(9)権限(その職務に伴う権限の範囲)などである。
職務分析の実施方法には、(1)実際の担当者による自己記入、(2)分析者による観察、(3)面接聴取、(4)統計データ使用、(5)測定、(6)検査などがあるが、通常は、周到な準備と計画のもとに各種の方法が併用される。職務分析の結果は、職務記述書や職務明細書にまとめられ、人事管理については、採用、昇進、配置転換、人事考課、教育訓練、賃金、安全衛生などの資料とする。とくに職務給を採用する場合には、職務分析が絶対的要件となる。組織管理については、職務の分担、部門の編成、指揮監督、各種規程の作成などの資料となる。
[森本三男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…もともと1930年代以降アメリカの大企業や官公庁など,多数の職種をかかえた経営体で採用されるようになった賃率設定のための技術である。まず(1)経営体のなかのさまざまな職務について,仕事の質・量,内容,方法,作業を遂行するのに必要な資格条件,作業条件を記述し,作業の範囲,量,資格条件などを確定すること(職務分析),(2)その結果を各職務に必要な責任,努力,教育・訓練の程度,生理的・心理的条件・環境などの評価要素により,相対的に評定し,職務を分類すること(職務評価・職務分類),(3)それに基づいて職務等級に格付けし,賃率を結び付ける賃金表を作成すること,(4)各職務に従業員を配置するための昇進試験,人事考課の諸制度をつくり昇給・昇進管理のルールを設定すること,である。 日本では,職務給は十条製紙が1952年に導入したのが最初である。…
※「職務分析」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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