キャリア発達(読み)キャリアはったつ(英語表記)career development

最新 心理学事典 「キャリア発達」の解説

キャリアはったつ
キャリア発達
career development

キャリア発達定義は,以下のように分類される。

 第1はキャリア発達を広義にとらえる定義である。たとえばスーパーSuper,D.E.は,人生全般を通じての役割の分化結合過程(ライフ・キャリアlife career)と定義し,自己概念の発達と実現をその基本においた。

 第2は,第1の定義を職業生活に限定した,より具体的な定義である。たとえばアメリカ心理学会による「仕事についてのアイデンティティ形成,進路意思決定進展,生活,仕事の経験,教育,OJTなどによって影響を受けるようなことの進展」などがある。

 第3は,一つの組織におけるキャリア発達(組織内キャリア発達)に着目する,最も限定的な定義である。たとえばホールHall,D.T.による「個人のキャリア・プランニングの過程と組織のキャリア・マネジメントの過程との相互作用から生じる結果」とする定義がある。キャリア・プランニングとは,自分のキャリア上の機会,制約に気づき,キャリア目標を設定し,それを達成するための方向性や必要なステップに関係する仕事や能力開発,経験を計画することである。キャリア・マネジメントとは,効率的な採用,配置,評価,訓練等によって将来的に組織が求めるものに合致するような有能な従業員を生み出していく活動である。またシャインSchein,E.H.は,垂直軸,円周軸,放射軸という三つの軸上の移動に基づく組織内キャリア発達モデルを構築している。

 キャリア発達の特性として,スーパーは,不可逆性(つねに前進する継続的な,一般に後戻りのできないプロセス),段階性・予測可能性(秩序ある,パターン化できる予測可能なプロセス),個人と環境間の相互作用性・プロセス性(ダイナミックなプロセス)という三つのプロセスを指摘している。

 キャリア発達の評価・測定については,客観的キャリア発達の指標として,賃金,昇進回数および職位レベルが主に採用されてきた。主観的キャリア発達の指標としては,職務満足やキャリア満足が主に採用されてきた。これまでは客観的キャリア発達の評価が中心であったが,近年,昇進や昇給などにあまり関心を示さない,いわゆる非上昇志向型人材の増加により,昇進などの客観的基準による一律のキャリア目標が十分に機能しなくなってきた。今後はキャリア自律(自分らしい自律的なキャリア)を考慮した主観的キャリア発達の評価が重要性を増してくると予想される。

【キャリア発達の理論】 代表的なキャリア発達に関する理論やモデルを以下に挙げる。第1は,スーパーによるライフスパン・ライフスペース・アプローチである。これは,キャリア発達を役割(ライフスペース)と時間(ライフスパン)の2次元からなるライフ・キャリア・レインボーという図式で表わす。ライフスペースは,子ども,学生,趣味人,市民,労働者,家庭人,その他から成る。これらの役割が演じられる生活空間として,家庭,学校,地域社会,職場が想定される。ライフスパンは人生の発達段階を示す。人びとは環境への適応等に関する発達課題を達成することによって,成長期,探索期,確立期,維持期,解放期という段階を進行する。キャリア発達とは,個人が一連の発達課題(希望の仕事をする機会を発見するなど)を達成しながら,なりたい自分であるキャリア上の自己概念を実現していくプロセスと考えられる。これは,キャリア発達の現在の位置づけを自覚し,将来に向けた方向性をプランニングするために有効である。

 第2は,ホランドHolland,J.のRIASECモデルである。このモデルでは,人びとのパーソナリティは,現実的(R),研究的(I),芸術的(A),社会的(S),起業的(E),慣習的(C)の6タイプいずれかに分類され,人びとの属する環境もこの6タイプで説明される。人びとはその中で,自分の価値観と適合し,能力が活用され,自分が従事したいと思う役割を担える環境を求める。このモデルの中では,人びとのキャリア発達はパ-ソナリティと環境との相互作用に大きく影響される。このモデルに基づき,人びとの職業興味を測定する心理検査がVPI職業興味検査vocational preference inventoryである。これは,160の職業に対する興味の有無を回答してもらい,その結果をRIASECの六つの職業興味領域と五つの行動傾向に対する個人の特性で解釈していく。

 第3は,クラムボルツKrumboltz,J.D.らが提唱した計画された偶発性planned happenstanceである。これは,人生を確実に予測しながら進むことは難しいが,自分にとって望ましい偶然をよび込みやすくすることができると考える。そのためには,偶然を重視し,つねに目標達成に向け柔軟で持続的,高いリスクに挑戦するような行動を取ることが必要であり,それがキャリア発達につながるとしている。現代は,グローバル化など環境変化が著しく,職務の内容が変化しつづけている。そのため,緻密に設定されたキャリア・プランニングどおりにキャリアが一歩一歩発達すると想定することは困難である。計画された偶発性は,このような状況下で現実的なキャリア発達に結びつく考え方である。

【キャリア・カウンセリング】 所属企業の倒産や人員削減(いわゆるリストラ)など,キャリアを巡る環境激変の結果,個人が当初考えていたキャリアの変更を余儀なくされることが増えてきた。そうした中で,キャリア・カウンセリングが注目されるようになってきた。これは「個人がキャリアに関して抱えている問題や葛藤の解決とともに,ライフキャリアにおける役割と責任の明確化,キャリア・プランニング,キャリア決定,その他キャリア開発行動に関する問題の解決を個人またはグループカウンセリングによって支援すること」(全米キャリア開発協会National Career Development Association)などと定義され,対人関係に基づく支援や相談活動を示す。この目的としては,自己のキャリアについての理解の促進,個人の行なうキャリア・プランニングの支援,キャリアに関する多様な情報提供の支援,キャリア上の意思決定の支援,組織や職務への適応の支援などが含まれる。技法としては,来談者中心療法,行動療法,認知行動療法などが応用されることが多い。 →職業適性 →能力開発
〔山本 寛〕

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