肝・胆道の形態検査

内科学 第10版 「肝・胆道の形態検査」の解説

肝・胆道の形態検査(肝・胆道の疾患)

 形態検査法としては,超音波検査,CT,MRI,核医学検査,血管造影がある.最近では,超音波造影剤やMRI特異性造影剤の登場で,核医学検査と同様に,超音波検査やMRIでも細胞機能を画像化できるようになった.各検査法の原理,利点と欠点,および適応について述べる.画像所見ならびに鑑別診断については疾患の各論を参照されたい.
(1)超音波検査
 可聴域をこえる音波(超音波)は生体内を伝播し,音響的性質の異なる境界面で反射や散乱をする.これらが戻ってくるまでの時間と強度を二次元画像(断層像)として描出する検査法である.非侵襲的で簡便なため,外来やベッドサイドで最初に施行される.骨や空気が介在すると後方の構造が描出困難なことや手技者の技量に左右されることが欠点である.
a.Bモード画像
 肝の形態と大きさに加え内部性状を評価でき,びまん性・限局性を問わず肝病変には適応がある.病変は正常構造と比較して異なる輝度(エコーレベル)の領域としてとらえられ高エコー,低エコー(図9-1-2A)あるいは無エコーを呈し,ときに等エコーを示す.胆囊の形態と大きさ,壁の異常,内腔の異常を評価できる.胆管拡張の有無,内腔の異常および壁肥厚の状態が評価できる.
b.カラードプラ,パワードプラ法
 カラードプラ(color Doppler)法では,血液の平均流速(周波数偏位)をカラー表示し血管異常や腫瘤性病変の血流情報を取得できる.パワードプラ(power Doppler)法は周波数偏位の積分値(パワー)を表示したイメージで流速の情報は得られないが,血流の感度が高いため低流速血流や微小血管の描出に有用である.
c.造影超音波検査
 造影剤として強い反射源となる気泡が用いられる.超音波を照射された気泡は共振し,一定の閾値をこえた音圧では崩壊する.共振崩壊に伴う発生信号は非線形成分をもつため,ハーモニック法などを利用して画像化される.急速静注することで病変の動脈血流ならびに門脈血流を評価できる.気泡が類洞のKupffer細胞に貪食されたKupffer相では,肝実質は高エコーに猫出されKupffer細胞をもたない病変の検出や鑑別に利用される.
(2)CT
 人体の断面内組織のX線吸収量を測定し,コンピュータを駆使してデジタル画像化する.放射線被曝の欠点があるが客観性と再現性が高い.マルチスライスCTの登場で,時間分解能と空間分解能が著しく向上した.さらに多彩な三次元再構成画像により病変の進展範囲診断の精度も高まり,肝・胆道の形態診断の中心的役割を担っている.
a.単純CT
 CT値(hounsfield unit:HU)は水を0 HU,空気を−1000 HUとしてX線吸収係数を表示した相対的な値で,脂肪は電子密度が低く負のCT値(−100 HU)を示し,正常肝のCT値は40~70 HUである.濃度の異常から病変を推測可能で,囊胞,脂肪沈着,石灰化(図9-1-3),ガスを伴う異常などは容易に診断できる.一方,腫瘍,炎症など大部分の病変は軽度の低吸収に描出されるため,診断が困難なことが多く造影CTが必要になる(図9-1-2B).正常胆囊壁や胆管壁は薄く認識できない.壁を認めるときや内腔に異常を指摘できるときは,腫瘍や炎症の可能性を疑い精査が必要になる.
b.造影CT
ⅰ)ダイナミックCT(dynamic CT)
 造影剤を急速静注し病変の血行動態を経時的に評価する方法で,全肝の多血性病巣の検出に加え,結節性病変の鑑別診断に有用である.マルチスライスCTによる薄層断面で,任意方向の胆囊・胆管像を再構成できるため,胆道系悪性腫瘍の進展度診断にも有用である.
1)造影早期相(動脈優位相):
動脈性に肝実質や胆囊壁が濃染する時相で,肝細胞癌のような多血性病変は正常部よりも高吸収に描出される(図9-1-2C).
2)造影後期相(門脈優位相):
造影剤を含む門脈血の還流で肝実質が最もが強く濃染する時相である.肝細胞癌や転移性肝腫瘍のように,門脈血流が欠損する病変は低吸収に描出される.
3)平衡相:
すべての脈管系が同一の濃染程度を示す時相である.海綿状血管腫のような広い血洞や大腸癌の肝転移のような粘液に富む血管外間質は造影剤の停滞で高吸収に描出される.
ⅱ)動脈造影併用下CT
(動注CT) 肝病変の血行動態を評価する検査法としては最も精度が高いが,動脈造影の手技を必要とする侵襲的検査法であるため最終的診断法に位置づけられる.
1)肝動脈CT
(CT during hepatic arteriography:CTHA):
固有肝動脈あるいは総肝動脈から造影しながら撮像する方法で,病変の動脈血流の多寡を正確に評価できる.
2)門脈CT
(経動脈性門脈造影下CT;CT during art­erial portography:CTAP): 上腸間膜動脈あるいは脾動脈造影下に施行しながら全肝を連続スキャンする方法で,病変の門脈血流欠損(perfusion defect)や低下を評価できる最も鋭敏な方法であるが,異所性静脈環流を受ける胆囊床や左葉内側区肝門側なども還流欠損像を呈し偽病変となる欠点がある.
ⅲ)点滴静注下胆道造影
(drip intravenous cholangiography CT:DIC-CT) 胆汁中に排泄されるヨウ素造影剤を点滴静注し,胆道が造影された時点でCTを撮影する方法である.3次元再構成画像は,胆囊管の解剖学的情報の術前評価に有用である.しかし,造影剤の副作用と放射線被曝の欠点があり適応は限定されつつある.
(3)MRI
 高磁場内に置かれた水素原子核が電磁波(ラジオ波)を吸収し,放出する際に,これを信号として取得し画像化する検査法である.水分子や脂肪酸が信号源で,分子運動の速度や方向性がT1強調像やT2強調像の信号強度に反映される.さらに水分子のBrown運動を拡散強調像として評価できる.また,多彩な造影剤が利用でき,その使い分けも重要になる.
 最大の利点は被曝がない点である.欠点は体内に強磁性体などの金属や,ペースメーカなどの電子制御器機が存在すると検査ができない点である.
a.単純MRI
 T1強調像には,呼吸停止下に全肝を撮像できるグラディエント・エコー(gradient echo:GRE)法が利用される.病変の多くはT1強調像で低信号を呈する(図9-1-2D).肝実質自体あるいは病変に脂肪を伴うことがあるため,脂肪抑制法を併用した画像に加え,位相コントラスト法で水と脂肪の信号が足し算になる同位相(in-phase:IP)像と,引き算の関係になる逆位相(opposed-phase:OP)像とを撮像し,これらの画像を比較することで脂肪沈着の有無ならびに多寡を評価できる(図9-1-4).
 T2強調像は高速スピンエコー(fast spin echo:FSE)法で呼吸同期下に3〜4分で撮像する方法が充実性病変で十分なコントラストが得られことから推奨される(図9-1-2E).1秒以内に撮像可能な超高速FSE法によるT2強調像では,液体が著明な高信号に描出されるため胆囊や胆管の評価には有用である.
 磁気共鳴胆管膵管撮影(MR cholangiopancreatography:MRCP)は,液体成分のみが著明な高信号を示すT2強調像の一種で,胆囊・胆管腔の全体像が得られ,内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)に先立つ検査法として頻用されている(図9-1-5).腫瘍や胆石の検出に加え,上流側の胆管の状態も評価可能で,膵胆管合流異常のスクリーニングにも有用である.
b.造影MRI
 細胞外液性,網内系および肝細胞胆道系造影剤に大別される.
ⅰ)細胞外液性造影剤
 水溶性ガドリニウム(Gd)製剤を使用する.水分子のT1を短縮するため,造影剤の分布域はT1強調像で高信号に描出される.呼吸停止下に施行できるGRE法によるダイナミックスタディは,多血性病変の検出と腫瘤性病変の鑑別に有用である.静注数分後の平衡相では,壊死や囊胞の確認(非造影領域)あるいは間質成分の多寡(遅延性濃染域)の評価が可能である.
ⅱ)網内系造影剤
 超常磁性酸化鉄粒子(SPIO)を使用する.Kupffer細胞に取り込まれたSPIOは局所磁場の不均一をきたし,T2強調像やT2強調像で信号の低下を示す(T2強調像:局所磁場の不均一をきたす鉄沈着の描出に鋭敏).その結果,Kupffer細胞を有さない肝細胞癌や肝転移は相対的に高信号に描出される.転移巣の検出や他診断法での偽病変の評価に有用である.
ⅲ)肝細胞胆道系造影剤
 肝細胞に取り込まれ胆汁中に排泄される脂溶性Gd製剤(Gd-EOB-DTPA)が利用されるが,親水基も有するため尿中にも排泄される.細胞外液性Gd製剤と同様,T1短縮効果を示し分布域はT1強調像で高信号を呈し,ダイナミックスタディによって病変の血流状態を評価できる.造影20分後には肝細胞に取り込まれた造影剤によって肝実質はT1強調像で高信号を示し,肝転移や肝細胞癌の検出能の向上が期待できる(図9-1-6).一方,限局性結節性過形成などの肝細胞性病変では造影剤を取り込むため,限局性病変の鑑別診断にも利用される.肝細胞胆道系造影T1強調像の肝細胞実質相では,胆汁が造影され胆管内も高信号に描出されてくる.三次元撮像法で,胆道系全体が描出できる.
(4)核医学検査
 細胞レベルの機能診断が可能な分子イメージングの1つで,形態検査として利用されることはほとんどない.γ線を放出する放射性同位元素で標識された物質が投与された一定時間後に臓器に取り込まれた状態を多方向の二次元像や断層像(SPECT)を撮像する検査と,放射性同位元素から放出された陽電子線(β線;positron)が消滅する際に発生するγ線を測定し画像化するポジトロン断層撮影(positron emission tomography:PET)に大別される.
a.肝脾コロイドシンチグラフィ
 99mTc-スズコロイドや99mTc-フチン酸を静注すると,80~95%が肝網内系細胞(Kupffer細胞)に摂取され,残余は脾や骨髄に分布する.慢性肝炎の活動性,急性肝炎の重症度,肝細胞性結節性病変の鑑別などに適応があるが,超音波検査,CT,MRIの登場で近年はほとんど施行されていない.
b.肝受容体シンチグラフィ
 99mTc-GSA (galactosyl human serum albumin diethylenetriamine pentaacetic acid technetium-99m)は,正常肝細胞表面に存在するアシアロ糖蛋白受容体に特異的に結合し肝内に取り込まれることから,肝の形態と機能の両面を評価できる.99mTc-GSAの肝への摂取率には肝細胞量が反映されるため,同受容体が減少するさまざまな肝疾患の評価や肝切除術に際して残肝予備能の評価に利用される.
c.肝・胆道シンチグラフィ
 99mTc-PMT(N-pyridoxyl-5-methyl tryptophan technetium-99m)を静注すると,能動輸送で血中から肝細胞へ速やかに取り込まれ胆道系に排泄される機序を利用する.先天性胆道閉鎖症の診断,体質性黄疸の鑑別,肝移植後の機能評価などが適応となる.
d.FDG-PET
 化学構造式がグルコースに酷似する18F-FDGは,細胞膜のグルコーストランスポーター(GLUT)により細胞内に取り込まれヘキソキナーゼによりリン酸化されるが,リン酸化以降は解糖系で代謝を受けず細胞膜も通過できないため細胞内に蓄積されていく.FDG-PETは糖代謝の亢進している癌組織の描出に利用されるが,原発性肝腫瘍の検出や鑑別診断よりも無症候性転移や治療効果判定や治療後の再発診断に有用である.CTやMRIと比較して空間分解能に劣るため,近年は融合画像を撮像するPET-CTやPET-MRIが利用されつつある.
(5)血管造影
 血管性病変を除けば,診断目的に動脈造影が施行されることはほとんどなく,先述した動注CT,あるいは外傷性出血や肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術を目的としたinterventional radiology(IVR)に先立つ検査法として施行される.[角谷眞澄]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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