日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺感染症」の意味・わかりやすい解説
肺感染症
はいかんせんしょう
病原微生物による肺の疾患で、肺炎をはじめ、肺真菌症、肺化膿(かのう)症、肺結核、非結核性抗酸菌症などがある。
肺炎は化学療法の進歩によって予後がよくなったとはいえ、なお日本の死因順位では1975年(昭和50)以来25年以上も第4位であり、呼吸器疾患死亡者数の首位を占めている。治療法の進歩により重篤な基礎疾患を有する者の延命が可能となるとともに、全身的・免疫的抵抗力の低下を背景とする弱毒菌感染ないし日和見(ひよりみ)感染による肺炎が増えている。起炎菌では、グラム陽性球菌による肺炎は抗生物質の使用によって著明に減少し、耐性菌感染が問題とされ、一方ではグラム陰性桿菌(かんきん)による肺炎が増加している。
肺真菌症は、肺感染症のなかで占める比率は高くはないが、日和見感染としてしだいに増加の傾向にある。気管支肺炎の症状を示す。そのほか、原虫によるニューモシスチス‐カリニ肺炎なども注目されている。在郷軍人病は、1976年アメリカで在郷軍人会に出席した市民に多発した肺炎で、16%の死者を出して注目を浴びた。その起炎菌はレジオネラ・ニューモフィラLegionella pneumophilaと命名された。
肺化膿症は、化学療法の発達により外科療法が可能となったが、さらに優れた化学療法剤の出現によって化学療法のみで治癒するようになってきた。肺化膿症の現在の問題点は肺癌(はいがん)との鑑別と起炎菌の決定である。
肺結核症は結核菌による感染症であるが、第二次世界大戦後、抗結核剤の発展により患者数は激減し不治の病ではなくなった。しかし難民の増加やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染などに伴って全世界では患者数の増加がみられる。また、大都市の低所得層の結核、高齢者層への偏在、多剤耐性結核、院内感染、集団感染の多発などの問題がある。世界保健機関(WHO)は85%以上の治癒率を得ることを目標にしているが、この目標達成のためにはDOTS(ドッツ)(直接監視下短期化学療法Directly Observed Treatment, Short Course)が不可欠としている。
非結核性抗酸菌症は1960年代前半までは、まれな疾患と考えられていたが、80年代ごろよりその増加が著しい。マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックスMycobacterium avium complex(MAC)菌症がもっとも多いが、マイコバクテリウム・カンサシーM. Kansasii菌症も増加している。治療は抗結核剤が中心となるが、内科的治療は困難なことが多い。
[山口智道]