非結核性抗酸菌症

内科学 第10版「非結核性抗酸菌症」の解説

非結核性抗酸菌症(感染症)

(1)疫学
 約20種類の抗酸菌が人に感染することが知られているものの,これらのうちのあるものは,感染というより単なる定着であったり,単なる汚染であったりする.感染症の多くは2~3の病原体によるものであり,特にMycobacterium avium-intracellulare complex(MAC)およびMycobacterium kansasiiによることが多い.
 肺結核と同様,非結核性抗酸菌による感染症は世界中に広がっている.AIDSの流行に伴って,非結核性抗酸菌,なかでもMACによる感染症は最近の20年間で有意に増加している.またわが国においては,近年,中年女性に発症するMAC症の重要性が高まりつつある(図7-2-14).
(2)肺MAC症の病型分類
 肺MAC症(pulmonary Mycobacterium avium-intracellulare complex infection)の病型として,①線維・空洞型,②結節・気管支拡張型,および③過敏性肺炎の3つの型がある(Rothlinら,1952).それぞれの病型の好発年齢,性別,臨床像,画像所見,臨床経過,および予後をまとめて表7-2-6に示す.③の病型はきわめてまれなので,臨床的には①,および②が重要である.
a.線維・空洞型
 主として上肺野を主体に空洞形成を示すもので,高齢者,喫煙者,アルコール依存症,あるいは塵肺など既存の肺疾患を有するものに多く認められる.この病型においては肺結核との鑑別が困難である.従来,肺MAC症は,この病型が主体であったが,最近ではこの病型は減少しつつある.本病型の特徴的病態は空洞形成にある(図7-2-15).
 本病型においては臨床症状を伴うことが多いものの,基礎疾患による臨床症状との鑑別が求められる.一般的には咳,および痰などの症状を伴うことが多い.息切れ,血痰,および全身倦怠感,体重減少,発熱,および寝汗などの全身症状を伴うこともありその際には,病変が進行していることが多い.
b.結節・気管支拡張型
 わが国においては,近年この病型が急増している.この病型では既存の肺疾患を有しておらず,中・高年の女性に多い.画像所見として,気管支拡張症と,空洞を有さない班状の結節を呈する(図7-2-16).臨床症状として慢性の咳,および膿性痰を認めるものの,全身症状,および血痰を認めることはまれである.進行はきわめて緩徐であること,画像所見は結節性陰影が主体であり空洞形成はまれであること,特に中葉,および舌区の小粒状影と気管支拡張を特徴とする.
(3)肺結核と肺MAC症との鑑別
 画像所見で非結核性抗酸菌症を疑っておらず,痰の抗酸菌染色にて抗酸菌陽性であるとの結果が届いた場合には,肺結核との鑑別が必要である.その際には,以下のポイントが重要である.①まず肺MAC症を念頭におくこと②Gaffky陽性でもただちに結核専門病院に送るのではなく,PCRの結果を待てる状況かを判断すること③患者の性別,基礎疾患の有無を考慮すること(女性で,かつ糖尿病などの基礎疾患がないときには肺MAC症を考慮)④病変の場所は上肺野優位か,中葉・舌区主体かを判断すること(中葉・舌区主体であれば肺MAC症を考慮)⑤気管支拡張所見を認めるか,否かを判断すること(気管支拡張所見を認めれば肺MAC症を考慮)⑥小粒状影を認めるか,否かを判断すること(小粒状影が中葉・舌区主体であれば肺MAC症を考慮)⑦確定診断はPCRを用いた遺伝子診断を行う.
(4)肺MAC症の治療指針
 肺MAC症化学療法は,リファンピシン,エタンブトール,クラリスロマイシンの3薬剤による多剤併用が基本である.必要に応じてストレプトマイシンまたはカナマイシンを併用する.
 肺MAC症の単剤による治療は効果が弱いうえに,特にクラリスロマイシン単剤投与では数カ月以内にクラリスロマイシン耐性菌が出現することが警告されているため決して行ってはならない.日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会/日本呼吸器学会感染症・結核学術部会(2012年)が推奨するわが国成人の標準的用量と用法は下記の通り.
 リファンピシン10 mg/kg(600 mgまで)/日 分1
 エタンブトール15 mg/kg(750 mgまで)/日 分1
 クラリスロマイシン600~800 mg/日(15~20 mg/kg)分1または分2(800 mgは分2とする)
 ストレプトマイシンまたはカナマイシンのおのおの15 mg/kg以下(1000 mgまで)を週2回または3回筋注
(5)M. kansasii症について
 M. kansasii症は,陳旧性肺結核,肺気腫などの肺の基礎疾患を有することが多く,しばしば粉じん暴露歴や喫煙歴を認めることより,発症には肺局所の障害が関与していることが推察される.高齢者,喫煙者,肺に基礎疾患を有することが多く,このため圧倒的に男性に多い.環境中に存在しないことから,1回でも検出されれば診断してよい.画像的には,肺結核や空洞/破壊型肺MAC症に類似した,肺尖の空洞影を呈することが多い.本症と肺結核との鑑別はきわめて困難である.[藤田次郎]
■文献
Kosaka N, Sakai T, et al: Specific high-resolution computed tomography findings associated with sputum smear-positive pulmonary tuberculosis. J Comput Assist Tomogr, 29: 801, 2005.
森 亨:結核と非結核性抗酸菌症の現状と対策.化学療法の領域, 25: 565, 2009.
Rothlin E, Undritz E.:Beitrag zur Lokalisationsregel der Tuberkulose. Schweiz Z allg Path Bakt, 15: 690, 1952.

非結核性抗酸菌症(抗酸菌症)

定義・概念
 非結核性抗酸菌(non-tuberculous mycobacteria:NTM)は結核菌群以外の培養可能な抗酸菌をいい,人工培地で培養できないMycobacterium lepraeは含まれない.塵埃,土壌,水などの自然界に広く存在している.現在,100種類以上が知られており,その中の20種類以上の感染症例が報告されている.殺菌的に有効な薬剤がなく,一部のNTMを除いて治癒は困難である.したがって,手術可能例については「病変部の切除」が有効である.
分類
 NTM症の中ではMycobacterium avium complex(MAC)症が最も多く約80%を占め,残りの大部分はMycobacterium(M.) kansasii症であり,その他に希少菌種によるNTM症がわずかに存在する.肺NTM症が最も多いが,免疫不全では全身播種型を呈する.
疫学
 診断技術の進歩と医療関係者の関心が高まったためか,近年,NTM症の増加が指摘されており,特に中年以降の基礎疾患のない女性に発症した肺MAC症の増加が顕著である.
病理・病態生理
 結核と同様に肉芽腫の形成が基本である.NTM症では患者家族や大量排菌者との接触者からの発病例がほとんどないことから,ヒトからヒトへの感染は無視し得ると考えられている.
臨床症状
 大部分が肺NTM症であり,呼吸器症状が主である.まれに皮膚病変,関節病変を引き起こすことがある.
診断
 日本結核病学会および日本呼吸器病学会は,2007年の米国呼吸器学会(ATS)/米国感染症学会(IDSA)の診断基準(Griffithら,2007)を基に新たに肺NTM症の診断基準を作成した(日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会ら,2008).
 肺病変を認め,かつNTMの検出(喀痰検査であれば2回,気管支鏡検査であれば1回)が必要である.
代表的なNTM症
1)肺MAC症:
病型としては上葉に好発し,結節影や空洞影を呈し,結核との鑑別が困難な線維空洞型,および中高年女性に好発し中葉舌区病変が主体の結節・気管支拡張型(図4-7-3)が主である.特に後者は増加傾向にある.その他,AIDSなどの免疫不全に合併する全身播種型,ホットタブ(室内設置用24 時間循環型浴槽)の使用に伴い発症する過敏性肺炎類似型などがある.治療はリファンピシン(RFP),エタンブトール(EB),クラリスロマイシン(CAM),ストレプトマイシン(SM)(またはカナマイシン(KM))の4剤治療を行う(日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会ら,2012).治療期間は菌陰性化後1年といわれているがエビデンスはなく,長期投与されることが多い.空洞を伴い排菌が止まらない症例では,病変が限局していれば外科的治療も考慮すべきである.
2)肺M. kansasii 症:
一般に先行肺病変のない男性に多く,30~40歳代が最も多い.上葉に好発し高率に空洞を形成し,結核との鑑別困難であるが,結核に比べ空洞は薄壁で散布巣が少ない傾向がある.NTM症の治療は一般に困難であるが,肺M. kansasii 症は治癒可能なNTM症であり,予後は良好である.RFPがkey drugである.ピラジナミド(PZA),パラアミノサリチル酸塩(PAS),は無効である.イソニアジド(INH),RFP,EB の3剤併用が有効で,治療期間は菌陰性化後1年である.[永井英明]
■文献
Griffith DE, Aksamit T, et al: An Official ATS/IDSA Statement: diagnosis and treatment of diseases caused by nontuberculous mycobacteria. Am J Respir Crit Care Med, 175
: 367–416, 2007.日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会,日本呼吸器学会感染症・結核学術部会:肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針-2008年. 結核, 83: 525-526, 2008.
日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会,日本呼吸器学会感染症・結核学術部会.肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2012改訂.結核, 87: 83-86, 2012.

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デジタル大辞泉「非結核性抗酸菌症」の解説

ひけっかくせい‐こうさんきんしょう〔‐カウサンキンシヤウ〕【非結核性抗酸菌症】

結核菌に似た抗酸菌によって起こる感染症。日本ではMAC(マック)(mycobacterium avium complex)とMK(mycobacterium kansasii)の二種の菌によるものが多い。感染経路は不明だが、人から人へは感染しない。→肺マック症

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六訂版 家庭医学大全科「非結核性抗酸菌症」の解説

非結核性(非定型)抗酸菌症
ひけっかくせい(ひていけい)こうさんきんしょう
Non-tuberculous (atypical) mycobacterial infection
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 結核の原因である結核菌の仲間を、抗酸菌(こうさんきん)といいます。結核菌以外の抗酸菌で引き起こされる病気が非結核性抗酸菌症です。かつては結核菌によるものを定型的と考えていたので、非定型抗酸菌症ともいわれていました。

 結核との大きな違いは、ヒトからヒトへ感染(伝染)しないこと、病気の進行が緩やかであること、抗結核薬があまり有効でないことなどがあります。結核の減少とは逆に発病者が増えてきており、確実に有効な薬がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきています。また、HIV感染者への感染(エイズ合併症)が問題になっています。

原因は何か

 非結核性抗酸菌が原因です。非結核性抗酸菌にはたくさんの種類があり、ヒトに病原性があるとされているものだけでも10種類以上があります。日本で最も多いのはMAC菌(マイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ)で、約80%を占め、次いでマイコバクテリウム ・キャンサシーが約10%を占め、その他が約10%を占めています。

 全身どこにでも病変をつくる可能性はありますが、結核同様、ほとんどは肺の病気です。発病様式には2通りあり、ひとつは体の弱った人あるいは肺に古い病変のある人に発病する場合、もうひとつは健康と思われていた人に発病する場合です。

症状の現れ方

 自覚症状がまったくなく、胸部検診や結核の経過観察中などに偶然見つかる場合があります。症状として最も多いのは咳で、次いで、痰、血痰・喀血(かっけつ)、全身倦怠感(けんたいかん)などです。進行した場合は、発熱、呼吸困難、食欲不振、やせなどが現れます。

 一般的に、症状の進行は緩やかです。ゆっくりと、しかし確実に進行します。

検査と診断

 診断の糸口は、胸部X線やCTなどの画像診断です。とくに、最も頻度の高い肺MAC症は特徴的な画像所見を呈します。異常陰影があり、喀痰などの検体から非結核性抗酸菌を見つけることにより診断されます。

 ただし、本菌は自然界に存在しており、たまたま喀痰(かくたん)から排出される(偶発排菌)こともあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床所見と一致することが必要です。2008年に肺MAC症の診断基準が緩やかになり、①特徴的画像所見、②他の呼吸器疾患の否定、③2回以上の菌陽性で診断できることになりました。

 菌の同定は、遺伝子診断法(PCR法やDDH法など)により簡単、迅速に行われるようになっています。

 非結核性抗酸菌症と最も鑑別すべき疾患は結核です。そのほか、肺の真菌症、肺炎肺がんなども重要です。

治療の方法

 結核に準じた治療を行います。最も一般的なのはクラリスロマイシン(CAM)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)、ストレプトマイシン(SM)の4剤を同時に使用する方法です。しかし、この方法による症状、X線像、排菌の改善率はよくても50%以下にすぎません。治療後、再び排菌する例などもあり、全体的な有効例は約3分の1です。副作用の出現率も3分の1程度あります。

 確実に有効な治療法がないので、患者数は増え、漸次進行例が増えてきているのが現状です。呼吸器科医が現在、最も悩んでいる疾患のひとつです。2008年秋に、クラリスロマイシンの大量療法とリファンピシンの代替薬リファブチンの保険での使用が可能となりました。しかし、画期的な治療というものではありません。

病気に気づいたらどうする

 結核に理解のある呼吸器科医あるいは結核療養所を受診するのがよいでしょう。生活は普通どおりにできますし、ヒトからヒトへ感染しないので、自宅で家族といっしょに生活してもかまいません。非結核性抗酸菌は水や土壌など自然界に存在しており、それが感染するということは、体が弱っている(免疫が落ちている)ことが考えられますので、むしろ体力を増強させるような生活が望まれます。

 治療に関しては、有効率は前述のとおりであり、薬は結核の時よりはるかに長期間服用する必要があります。したがって、積極的に治療を行うという医師と、消極的な医師がいます。筆者は、患者さんと家族に病状、自然経過、治療法、有効率、副作用、治療期間、予後などをよく説明し、患者さんと家族の意思に従うことを原則にしています。ただし、空洞のある例、排菌量の多い例、若年発症例、広範な病変例など、その人の人生に影響を与えると予測される場合には、積極的に治療をすすめます。

関連項目

 肺結核

松島 敏春

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)「非結核性抗酸菌症」の解説

非結核性抗酸菌症
ひけっかくせいこうさんきんしょう

非結核性抗酸菌の排菌に関連して病像や症状が認められ、その排菌が頻回かつ大量である場合に非結核性抗酸菌症(NTM症)という。非結核性抗酸菌とは、結核菌以外の抗酸菌(ライ菌は培養できないので別に扱われる)の総称である。以前は「非定型抗酸菌症(AM症:Atypical Mycobacteriosis)」と称されたが、国際的な流れを受けて、日本でも呼称を変更。2004年(平成16)ころから「非結核性抗酸菌症(NTM症:Non Tuberculous Mycobacteriosis)」の呼称が一般的に用いられている。

 非結核性抗酸菌は、ときとして健康人からも排菌されることがあるので、診断には、排菌に関連して病像や症状が認められ、その排菌が頻回かつ大量であることが必要である。非結核性抗菌症は毒力が弱く、各種の肺疾患および全身疾患に続発することが多い。通常は、肺の慢性感染症であるが、HIV感染者では全身散布型を示すことがある。人から人への感染性は認められていない。非結核性抗菌は多数あるが、日本で臨床的に検出される菌のうち約70%がマイコバクテリウム・アビウム・コンプレックスMycobacterium Avium Complex(MAC)で、約20%がマイコバクテリウム・カンサシーMycobacterium kansasiiである。治療の主体はクラリスロマイシンclarithroauycin(CAM)という薬剤で、これに抗結核剤を加える。

 なお、非結核性抗酸菌症を4群に分類した「ルニヨンRunyonの分類」(1956)は、臨床上有用であったが、診断法が進歩し、短時日のうちに菌の同定ができるようになったので、現在はほとんど用いられなくなった。

[山口智道]

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