真菌症(読み)しんきんしょう

精選版 日本国語大辞典 「真菌症」の意味・読み・例文・類語

しんきん‐しょう ‥シャウ【真菌症】

〘名〙 真菌によって引き起こされる疾患の総称。主にカンジダ菌により皮膚に起こるものと、カンジダ菌や放線菌などにより内臓に起こるものとがある。抗生物質剤の発達とともに、菌交代症として増加する傾向にある。

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デジタル大辞泉 「真菌症」の意味・読み・例文・類語

しんきん‐しょう〔‐シヤウ〕【真菌症】

真菌によって引き起こされる疾患の総称。主にカンジダ菌により皮膚に起こるものと、カンジダ菌・放線菌などにより内臓に起こるものとがある。免疫の低下しているときに日和見ひよりみ感染として発病することが多い。
[補説]感染部位の深さによって、深在性真菌症内臓真菌症全身性真菌症)、深部皮膚真菌症皮下真菌症)、表在性真菌症浅在性真菌症)に分類される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「真菌症」の意味・わかりやすい解説

真菌症
しんきんしょう

真菌によっておこる病気の総称。真菌は真核性の生物で光合成色素をもたず、多くは糸状で分枝する栄養体で構成され、糸状菌(カビ)ともよばれることがある。病原性の真菌は子嚢(しのう)菌類のうちの不完全菌類に多い。

 真菌は雑菌に近く、病気をおこす力(病原性)が弱いので、かつては真菌症は少なかったが、近年は医学の進歩そのものが誘因となって増加の傾向が目だっている。すなわち、抗生物質剤の発達によって病原性の強い細菌による死亡が激減し、抵抗力の弱い患者が多数生存するようになったため、真菌が病原性を発揮できるようになったほか、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤が広く使用されるようになり、その副作用として感染に対する抵抗力の減弱が多くみられるようになった(日和見(ひよりみ)感染)。また白血病や腫瘍(しゅよう)に対する化学療法によって白血球が極度に減少し、免疫力の低下がおこって、抵抗力の弱い重篤患者の末期生存例が多くなった。静脈内高カロリー輸液のためのカテーテルの留置をはじめ、尿路その他留置カテーテル、心臓の人工弁置換、臓器移植後の抗免疫療法など、近年真菌症増加の誘因となっている。なお、誘因のはっきりしない例もまれには存在する。

 真菌症にはカンジダ症放線菌症をはじめ、アスペルギルス症クリプトコックス症ムコール症ノカルジア症などが含まれる。カンジダ症の病原菌であるカンジダCandidaと放線菌症の病原菌であるアクチノミセスActinomycesは、口腔(こうくう)から消化管の全域に生息している常在菌(体内にいても普段は病気をおこさない菌)である。誘因によってカンジダは口腔、消化管、腟(ちつ)の粘膜に、また皮膚、さらに侵入して肺その他の臓器に病変をつくる。放線菌も歯肉、回盲部(盲腸付近)から侵入し、また肺に病変をつくる。

 アスペルギルス症、クリプトコックス症、ムコール症、ノカルジア症などの病原菌は、自然界に発育しており、その胞子は空中に舞い、吸入されて鼻咽頭(いんとう)に達したものは飲み込まれて消化管を通過し、また気管支に入ったものは喀出(かくしゅつ)され、いずれも普通は病気をおこさないが、誘因があると侵入し病変をつくる。アスペルギルス症はアスペルギルス・フミガーツスAspergillus fumigatusなどでおこされ、菌は堆肥(たいひ)や土壌に生息し、誘因に乗じて肺や消化器に病変をつくり、さらに全身に広がることがある。一方、慢性の病型では、肺結核の治った空洞の中に菌糸が球形に発育して発熱、喀痰(かくたん)、喀血などをおこし、喀痰中に黄褐色の菌塊を出すことがある。膿胸(のうきょう)に二次感染することもある。また角膜に潰瘍(かいよう)をつくることがあり、副腎皮質ステロイド剤を含有する目薬は潰瘍を増悪させるので、注意して使用する必要がある。クリプトコックス症はクリプトコックス・ネオフォルマンスCryptococcus neoformansでおこる。わが国でみられる真菌症の病原菌中では病原性がもっとも強く、誘因のない発病が相当に多い。肺のクリプトコックス症はかぜや気管支肺炎のような症状のまま治ってしまうものが多いが、ときに慢性経過をとる病型もある。もっとも多い病型は髄膜炎である。ムコール症はムコールMucorなどで、ノカルジア症はノカルジア・アステロイデスNocardia asteroidesなどでおこされ、誘因に乗じて肺や消化管に感染し、全身に広がりやすい。

[福嶋孝吉]

治療

放線菌症にはペニシリンGなどの抗生物質剤、ノカルジア症にはサルファ剤その他の抗菌剤、その他の真菌症にはアムホテリシンBや5-フルオロシトシン(5FC)などが用いられる。

[福嶋孝吉]

『伊藤章編『真菌症のすべて――最新知見からの現状と展望』(1997・医薬ジャーナル社)』『河野茂編著『深在性真菌症――これまでに解決したこと、これから解決すべきこと』(2000・診療新社)』『山口英世著『病原真菌と真菌症』改訂3版(2005・南山堂)』

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百科事典マイペディア 「真菌症」の意味・わかりやすい解説

真菌症【しんきんしょう】

広義の真菌類に属する種々のカビによる病気の総称。普通は白癬(はくせん),癜風(でんぷう)などの皮膚真菌症を除き,カンジダ,アスペルギルス,クリプトコッカス,ムコールなどの寄生によるものをさす。主として肺,消化器,腎臓,中枢神経,皮膚,女性生殖器などにみられる。抗生物質の使用の増加とともに菌交代症として頻度(ひんど)を増している。治療はアンフォテリシンB,ニスタチン,トリコマイシンなどの抗真菌薬を用いるが,あまり強力ではなく副作用もあり,一般に難治である。→アスペルギルス症肺カンジダ症
→関連項目日和見感染症モニリア病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「真菌症」の意味・わかりやすい解説

真菌症
しんきんしょう
mycosis

真菌による感染症。身体表面に感染する表在性真菌症と,深部組織に感染する深在性真菌症に分けられ,また,人体内に常在する真菌 (カンジダ,アクチノミセスなど) による内因性真菌症と,体外から侵入する真菌による外因性真菌症 (アスペルギルス,ムコール,クリプトコッカスなど) にも分けられる。真菌は他の微生物に比して病原性が弱く,健康体に感染症を起すことはまれであるが,癌,白血病,糖尿病などのような慢性消耗性疾患に続発したり,菌交代症として現れることが多い。日本でみられる真菌症には,放線菌症,ノカルジア症,クリプトコッカス症,ヒストプラスマ症,カンジダ症,アスペルギルス症,ムコール症などがある。

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栄養・生化学辞典 「真菌症」の解説

真菌症

 真菌の感染症.

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世界大百科事典(旧版)内の真菌症の言及

【菌類】より

…そのほか,被服,建築材,文化財・美術品,食料・飼料,医薬品製剤などあらゆるものに普通に生ずる。カビキノコ【椿 啓介】
[病原微生物としての菌類]
 人体に感染して病原性をもつ菌類は,担子菌類を除くすべての分類群にみられ,これら病原菌類の感染により発症した病気を真菌症mycosisという。真菌の病原性は一般に,細菌やウイルスなどの他の病原微生物に比べて弱く,感染後慢性化の傾向をたどるものが多いが,クリプトコックスCryptococcus neoformansやヒストプラズマHistoplasma capsulatumのように,急性に激烈な症状を示し死亡率の高いものもある。…

※「真菌症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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