肺化膿症は、肺炎と同様に
組織破壊の程度は、原因になる細菌の数や性状によって左右されます。
嫌気性菌は、口腔内にたくさん存在するために、
肺炎同様、発熱、
誤嚥による肺化膿症では、腐敗臭のある痰を伴います。ただし、症状の発現がゆるやかな場合があり、
黄色ブドウ球菌やグラム陰性
最も有用な検査は胸部X線です。X線像では、空洞と空洞内に液状のうみによる水平面(鏡面:ニボー)がみられ、体位を変換すると重力によってその水平面が動くのが特徴的です(図13)。
細菌学的検査は、嫌気性菌が関係する場合は
誤嚥性肺炎の場合は、誤嚥を来した基礎疾患(脳血管障害、神経疾患、胃食道逆流、口腔内の病変など)の検索も必要で、原因疾患をコントロールしなければ繰り返すことになります。
血行性感染の場合は、細菌が供給される遠隔病巣(尿路、
入院治療が原則です。誤嚥性肺炎なのか、血行性感染なのかを推定します。
誤嚥性肺炎の場合は、嫌気性菌の関与を考慮して、ペニシリン系と
肺炎と同様ですが、高齢者や寝たきりの人などでは症状の発現がゆるやかで、倦怠感、食欲不振、体重の減少などの不定の症状だけの場合があり、注意が必要です。
朝野 和典
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肺の化膿性炎症で,肺組織の破壊壊死により膿瘍が形成され,多くの場合水平面をもつ空洞ができる疾患をいう。肺胞内の炎症性滲出のみで肺組織の破壊がみられない点で,肺炎とは区別されている。しかし,ブドウ球菌もしくは肺炎杆菌による肺炎のように,肺実質の破壊傾向があり膿瘍をつくることもしばしばみられる場合,両者の区別は必ずしも明確ではない。従来は好気性菌感染による肺膿瘍lung abscessと,嫌気性菌感染による肺壊疽(はいえそ)lung gangreneの二つに区別したが,混合感染例も多く両者を判然と区別するのは困難なこともあり,両者を総括して肺化膿症と呼んでいる。抗生物質の導入により発生頻度は激減し,死亡率も著しく低下した。
発症の原因によって,以下のように分類される。(1)気管支性肺化膿症 血液,膿,食物などの口腔内汚物が気管内に吸引されることによって起こる場合で,抜歯,扁桃摘出術などで血液を吸引したり,アルコール泥酔,睡眠剤中毒,てんかん等の意識障害時に吐物を吸引したりすることから発病する。肺化膿症の原因の半数以上を占め,左肺より右肺のほうが多い。(2)他肺疾患から続発した肺化膿症 ブドウ球菌,連鎖球菌,肺炎杆菌などによる肺炎から続発する。肺癌(ことに扁平上皮癌)で癌組織の壊死崩壊に感染が加わったり,癌による気管支の閉塞を生じその末梢の無気肺部に感染が起こった場合などが挙げられる。そのほか,気管支拡張症,肺囊胞に続発することがある。(3)血行性肺化膿症 細菌性心内膜炎,敗血症,骨盤内血栓性静脈炎などで起こるが頻度は少ない。(4)隣接臓器からの波及性肺化膿症 アメーバ性肝膿瘍および横隔膜下膿瘍から右下肺に膿瘍をつくったり,食道癌の気管内または肺内穿孔(せんこう)による場合。(5)外傷性肺化膿症 胸部の穿孔性損傷により肺内に感染を起こしたり,閉鎖性損傷で生じた血腫に感染が加わった場合。
全身倦怠感,食欲不振,発熱,発汗,体重減少などで発病し,数日ないし数週後に多量の痰を喀出する。発熱は38~40℃に及ぶ弛張熱(1日の日内変動が1℃以上にもなる発熱)で悪寒を伴うことが多い。痰は1日数十mlから,ときに数百mlに及び,好気性菌感染では甘くにおい,嫌気性菌感染では腐敗性悪臭を放つ。容器に入れて放置すると,上から泡沫層,粘液層,茶褐色の沈殿物と3層に分離する。
症状経過と,胸部X線像で水平面をもつ空洞をみることから診断される。気管支鏡検査により気管支内の狭窄,拡張,異物などを調べるとともに,閉塞部位の生検により肺癌の合併についても検討する。喀痰の細菌検査により起炎菌の分離同定とともに抗生物質感受性について調べる。
安静,高タンパク質・高カロリー食,輸液,輸血などの一般療法も行うが,化学療法が中心となり,十分な量の抗生物質を長期間与える。薬剤の選択にあたっては感受性検査の成績を参考にするが,混合感染の形をとることが多く広域抗菌スペクトルの抗生物質を使用するとともに,嫌気性菌感染の合併についても配慮する。抗生物質の投与は,全身投与とともに,気管支鏡下に気管支内に注入する局所療法も行われる。痰の量が多い場合,体位を変えることによって排出促進(体位排痰法という)をはかる。症状消失後は抗生物質投与量を減量するが,X線所見がなくなるまで継続する。2~3ヵ月の化学療法を行ったあと,硬化性の空洞が残った場合は手術によって切除する。
執筆者:木村 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
肺の化膿性炎症で、組織の壊死(えし)により膿瘍(のうよう)を形成したものをいう。起炎菌や喀痰(かくたん)の性状によって肺壊疽(えそ)と肺膿瘍に分けられていたが、現在では両者を一括して肺化膿症とよんでいる。発生機序として、扁桃腺(へんとうせん)の摘出や抜歯の際に口腔(こうくう)内に出血した血液の気管内への誤入、睡眠中におこる副鼻腔炎などの膿汁の気管内への吸引、泥酔・脳血管障害・てんかん発作など意識障害があるときの吐物の吸引、肺癌(はいがん)のため気管支が閉塞(へいそく)しておこる末梢(まっしょう)肺領域の感染があげられている。肺癌と肺化膿症との関係はとくに重要で、肺化膿症の20~40%は肺癌に合併する。癌年齢の人に発生した肺化膿症は、癌との関連を明らかにする必要がある。
症状は、発熱を伴った空咳(からせき)で始まり、2、3日後急に膿性の痰を出すようになる。発病当初に小喀血(かっけつ)をみることもある。痰は悪臭を放ち、容器に入れて放置すると泡沫(ほうまつ)状粘液、漿液(しょうえき)性、膿性の三層に分かれる。治療には体位ドレナージと抗生物質の大量投与が行われる。約半数は薬物療法で治癒するが、肺癌が隠れていることがあるので、長期間薬物療法で観察することはよくない。外科的治療としては肺切除が行われる。
[石原恒夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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