肺胞微石症

内科学 第10版 「肺胞微石症」の解説

肺胞微石症(代謝異常による肺疾患)

定義・概念
 リン酸カルシウムを主成分とする肺胞内微石の出現を特徴とする常染色体劣性遺伝疾患である.微石はきわめて緩徐に成長し,最終的には多くの肺胞を埋め尽くす.肺胞壁には慢性炎症と線維化が生じる.小児期に胸部X線異常にて発見される症例が多い.中年期まで無症状で経過する.疾患は緩徐に進行し,患者は中年期以降,慢性呼吸不全,肺性心を発症する.
分類
 患者ごとに細かな臨床症状の違いはあるが,単一疾患と考えられている.
原因・病因
 患者には,Ⅱ型肺胞上皮細胞に発現するⅡb型ナトリウム依存性リン運搬蛋白をコードする遺伝子(SLC34A2)の機能欠失性変異が認められる.Ⅱb型ナトリウム依存性リン運搬蛋白は,肺胞腔内からリン酸イオンを汲み出し,除去する.肺胞腔内に残存したリン酸イオンがカルシウムと結合し,微石が形成されると推定される.遺伝子異常をホモ接合で有する場合,疾患をほぼ100%の確率で発症すると考えられている.
疫学
 希少疾患.世界で600例,日本で110例が報告されている.劣性遺伝疾患の特徴として近親婚家系に多くみられ,患者同胞にもしばしば患者が認められる.
病理
 剖検時の肺は硬く重い.割面は砥石様である.肺切片標本作製には脱灰が必要で,病理組織学的には肺胞内に層状構造を有する微石が認められる(図7-6-5).肺胞壁には慢性炎症と線維化がみられる.
臨床症状
 本症に特異的な症状,身体所見はない.著明なX線写真所見とは対照的に,自覚症状はほぼなく,呼吸機能検査も正常である.進行期では,呼吸不全,右心不全所見が出現する.呼吸機能検査では拡散障害が明確になる.
検査成績
1)胸部X線写真:
多数の微石の陰影の合成像として,著明なびまん性微細小粒状陰影が認められる.吹雪様陰影(snow storm appearance),砂嵐様陰影(sand storm appearance)と称される(図7-6-6).また,心陰影,横隔膜など周辺臓器の辺縁が不明確になる(vanishing heart phenomenon).
2)CT検査:
個々の微石は胸部CTの分解能を下回るため,個々の陰影ではなく,その集積像,および肺野濃度の上昇として観察される.胸膜下,小葉間隔壁,気管支血管束に沿った石灰化,さらに一部では濃厚な融合性石灰化が認められる(図7-6-7).
3)呼吸機能検査:
長期にわたって正常に保たれる.末期では拡散障害がみられるようになる.
診断
 気管支鏡による経気管支肺生検,または開胸肺生検で病理所見を確認して確定診断する.
鑑別診断
 びまん性の小粒状陰影を示す粟粒結核サルコイドーシス,転移性肺腫瘍との鑑別が重要である.病理所見で確定診断するが,末梢血DNAでSLC34A2遺伝子異常を確認しておくのが望ましい.
経過・予後
 中年期までは健常人と変わらない生活が可能である.呼吸不全が出現すると,以後の予後はそれで規定される.
治療
 根本的な治療はない.慢性呼吸不全,肺性心への対症療法が主体となる.海外では肺移植の報告もある.[萩原弘一]
■文献
Corut A, Senyigit A, et al: Mutations in SLC34A2 cause pulmonary alveolar microlithiasis and are possibly associated with testicular microlithiasis. Am J Hum Genet, 79: 650-656, 2006.
Huqun, Izumi S, et al: Mutations in the slc34a2 gene are associated with pulmonary alveolar microlithiasis. Am J Respir Crit Care Med, 175: 263-268, 2007.
立花暉夫:特集 稀少呼吸器疾患をめぐる最近の話題 肺胞微石症. 呼吸器科,5: 99-105, 2003.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「肺胞微石症」の解説

はいほうびせきしょう【肺胞微石症 Pulmonary Alveolar Microlithiasis】

[どんな病気か]
 肺のほとんどすべての肺胞の中に、カルシウム塩(リン酸カルシウム塩、炭酸カルシウム塩)が層状に沈着する病気で、劣性遺伝(れっせいいでん)します。
 病気の初期は、胸部X線写真をみると肺がカルシウム塩でまっ白になっているにもかかわらず、ふしぎなことに、ほとんど自覚症状がないという特徴があります。
 このような理由で、健康診断で偶然に発見される場合がほとんどです。
 ただし、自覚症状がないといっても、何年かして肺胞の壁の線維化が進行すると、からだを動かした後に、呼吸困難やせきなどの症状が現われてきます。
[原因]
 常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)という形式で遺伝します。
 劣性遺伝ですから、親に病気があっても、かならずその子どもが病気になるわけではありません。
 原因は不明ですが、カルシウム塩は肺胞の壁でつくられ、肺胞の中へ分泌(ぶんぴつ)されて蓄積します。
 これは、幼少のころから徐々に始まり、おとなになってから、はっきりした異常として完成します。
[検査と診断]
 病気が初期のうちは、自覚症状がほとんどないのが特徴です。大部分の人は健康診断のときに胸部X線写真を撮り、肺全体がすりガラスのように白く濁っていることで発見されます。
 診断を確定するには、開胸肺生検(かいきょうはいせいけん)という方法で肺の一部をとり、顕微鏡で観察して、肺胞にカルシウム塩の層状の沈着を証明しなければなりません。
[治療]
 カルシウム塩を取り除くような根本的な治療法はありません。せきが出たら、せきをとめるという、症状を抑えるための対症療法が中心となります。
 日常生活の注意としては、かぜをひかないように注意します。かぜをひいた場合は、十分にからだを休めて早く治すような、一般的な注意が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「肺胞微石症」の解説

肺胞微石症
はいほうびせきしょう
Pulmonary alveolar microlithiasis
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 肺胞内にリン酸カルシウムが沈着してくる病気です。日本ではこれまで100例ほどの報告があります(図38)。

原因は何か

 原因は不明ですが、約半数の症例が家族内発症であり、この場合には常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)遺伝と推定されています。

症状の現れ方

 進行は遅く無症状です。進行すれば呼吸不全になります。

検査と診断・治療

 胸部X線像で吹雪様の典型的な所見があるので、診断は容易です。

 有効な治療法は、肺移植以外にはありません。

千田 金吾


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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