翻訳|gastrocamera
胃の内部を撮影するためのカメラで、日本で開発され「ガストロカメラ」の商品名で知られる。これによって胃の内視鏡検査が急速に普及したことと、その親しみやすい名称のために、上部消化管(食道・胃・十二指腸球部)の内視鏡検査が胃カメラ検査と通称される。今日では先端に小型撮像素子(CCD)を組み込んだ電子スコープが使用される。電子スコープでは、モニター画面を通して被検者も自身の体内を見ることができる。
[多賀須幸男]
胃内に小型カメラを挿入して撮影しようという試みはすでに1898年に行われており、1930年にはドイツでガストロフォトールGastrophotorの名で商品化までされたが、実際の使用には役だたなかった。1950年(昭和25)に東京大学医学部附属病院分院外科の宇治達郎(たつお)(1919―1980)が、オリンパス光学工業(現、オリンパス)の技術者2人すなわち杉浦睦男(むつお)(1918―1986)と深海正治(ふかうみまさはる)(1920―2021)の協力を得て胃内撮影装置を完成、発表した。この装置では、幅6ミリメートル・長さ30センチメートルのフィルム上に約25こまの写真を撮影できた。以後、東京大学医学部の内科および外科を中心にして、その改良とそれを利用した診断法の確立への努力が続けられ、1960年ごろから日本全国に普及した。
[多賀須幸男]
胃カメラは長さ約80センチメートルの柔軟な管の先端に、焦点距離3.6ミリメートル、F17程度の固定焦点レンズをもった小型カメラを取り付けたものである。カメラの方向は手元で操作でき、胃を膨らませるための送気管が設けられている。シャッターはなく、先端の電球のフラッシュにより、幅4~5ミリメートルのカラーフィルムに、5×6ミリメートルまたは4×6ミリメートルの写真が21~40こま撮影できる。直接胃の内部を見ることはできないので、腹壁を通して見えるフラッシュを参考に位置を推定して撮影した。その後、ファイバースコープが発明され、その先端に胃カメラを組み込んだ器械(GTF)ができ、胃内を観察して撮影することが可能となった。
[多賀須幸男]
胃鏡では検査している医師が、暗い視野のなかの所見をやっとスケッチできた程度であったが、胃カメラでは胃内部の鮮明なカラー写真が容易に撮影できた。そのために胃内のようすを多人数で客観的に検討できることになって、胃の内視鏡診断は急速に進み、胃がんの早期診断に大いに貢献した。1961年に日本消化器内視鏡学会が制定した早期胃がんの分類は、世界中で採用されている。また従来の胃鏡検査に比較すると安価で技術の習得も容易であったので、多くの医師が使用することができた。なお、日本消化器内視鏡学会は、1959年に創設された胃カメラ研究会が1961年に日本内視鏡学会へと発展し、1973年に現在の名称に変更された。2018年(平成30)の時点で約3万4000名の会員を擁している。また胃カメラ開発によって培われた技術が向上し、日本製の内視鏡は世界中で広く使われている。
上部消化管の内視鏡検査(いわゆる胃カメラ検査)は、朝食をとらない状態で、のどを麻酔したのち、太さは6~10ミリメートルの内視鏡を口から挿入し、食道から十二指腸球部までを数分から10分程度で検査できる。観察、撮影のほかに、色素液を散布して病巣を明らかにしたり、粘膜の小片をつまみ取って顕微鏡で検査すること(生検)が必要に応じて行われる。危険はまったくない。
X線被曝(ひばく)がなく、診断の精度が非常に高いので、内視鏡検査が胃透視にとってかわった。これにより食道、十二指腸の早期がんの診断も可能になった。集団検診にも用いられる。
[多賀須幸男]
さらに近年では、鼻から挿入する経鼻内視鏡、バッテリーを内蔵した小型カプセル型の内視鏡が開発され、その有用性が確認されている。
[編集部]
『深海正治監修・胃カメラ歴史研究会編著『胃カメラの技術物語』(1999・めいけい出版)』▽『吉村昭著『光る壁画』(新潮文庫)』
ガストロカメラともいう。胃癌,胃潰瘍,胃ポリープなどの胃内病変の診断に際して用いられる医療機器で,胃内腔に挿入し,体外から遠隔操作でフィルムを巻き上げ,カメラのアングルを操作して撮影する。1950年に日本で発明され,それまで自覚症状がなく発見が手おくれのために根治手術が不可能の場合が多かった胃癌の早期発見に威力を発揮し,急速に普及した。胃カメラの連結部直径は7.5mmと細く,集団検診にも用いられる。固定焦点,固定絞りの広角レンズ(口径比1:11,撮影深度20~100mm,画角108度)で,シャッターはタングステン豆ランプの瞬間せん光による夜間撮影の原理を用いている。胃内腔に自動送気システムで空気を送り,腹壁を透過してくる光の位置でカメラの胃内での位置方向を容易に知り,数分で盲点なく手軽に撮影できる。利点は,挿入が容易で,操作も迅速かつ確実なことである。
現在は,直接観察しながら写真を撮影することを兼ね合わせ,同時に直視下に病変部を一部採取して病理組織診断に供するために,生検用ファイバースコープ付胃カメラが開発された。従来の胃カメラに対して,光ファイバーを応用したもので,先端ランプ照明を廃して体外から照明用の光を送るライトガイド(コールドライト光源)方式が用いられ,このため電球の大きさだけ先端硬性部の長さが短くなる利点がある。この方式だと,先端が熱をもつことがきわめて少なく,きわめて明るい照明が得られ,やけどの心配もない。フィルム装換は先端部でフィルムカセット方式としたため,暗室内でのフィルム交換や暗箱の必要がなくなった。したがって,従来の上下アングルのほかに左右アングルを付けることが可能となった。この4方向アングルは,より確実かつ精密な内視鏡による観察と写真撮影を可能にした。手元の操作部はトランペット式の自動送気・送水・吸引装置を付けることで,胃内腔の伸展は自由となり,胃液採取も簡単に操作できる。生検鉗子用のチャンネルはファイバースコープ内に設けられ,必要に応じていつでも直視生検が可能であるし,病巣にテフロン管を密着し陰圧で管内に細胞を吸引または専用ブラシを用いて直視下擦過細胞診もできる。撮影写真は,シャッターを押すだけで,つねに適正露出の写真が得られるようになっている。生検用ファイバースコープ付胃カメラは診断するものに使用されるばかりでなく,これを用いて胃ポリープを高周波電流を利用して切除したり,レーザー光線を用いて胃内壁からの出血源を止血する処置治療も可能である。レンズとランプの撮影機構と送気・送水口や鉗子口以外は胃内腔に入る必要がないので,苦痛は軽減されて,従来の胃カメラの欠点はほとんど克服された。
→内視鏡
執筆者:大塚 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…しかし,この程度の曲りでは盲点も多く,使用には高度の技術を必要とした。そこで東京大学の宇治達郎(1919‐80)はオリンパス光学工業の杉浦睦夫,深海正治らの協力を得て,50年に胃のなかに挿入して撮影できる小さい写真機を発明して胃カメラgastrocameraと名づけた。胃カメラでは胃の内部を直接に見ることはできなかったが,約30枚のカラー写真におさめることができた。…
…しかし,この程度の曲りでは盲点も多く,使用には高度の技術を必要とした。そこで東京大学の宇治達郎(1919‐80)はオリンパス光学工業の杉浦睦夫,深海正治らの協力を得て,50年に胃のなかに挿入して撮影できる小さい写真機を発明して胃カメラgastrocameraと名づけた。胃カメラでは胃の内部を直接に見ることはできなかったが,約30枚のカラー写真におさめることができた。…
※「胃カメラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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