胃切除後に、食物が小腸に急激に流入することによって生じる一連の症状。食直後から30分以内に症状が出現する「早期ダンピング症候群」と、食後2~3時間で出現する「後期ダンピング症候群」に大別される。
早期ダンピング症候群では、食後の全身倦怠(けんたい)感、冷汗(れいかん)、動悸(どうき)、顔面蒼白(そうはく)・紅潮、腹痛、腹鳴、吐き気・嘔吐(おうと)、下痢などが起こる。浸透圧の高い食物が急に小腸に流入するために、細胞外液が腸管内に移行し、腸の蠕動(ぜんどう)が亢進(こうしん)したり、血管内脱水になるのが一因と考えられている。さらに、セロトニン、ニューロテンシン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)などホルモンの関与も考えられている。
後期ダンピング症候群では、15~20分継続する発汗、頻脈、頭痛、めまい、手足のふるえ、脱力、倦怠感などが起こる。腸管からの糖質の吸収によって急激に血糖値が高くなることで、インスリンが過剰分泌されて起こる反応性低血糖と考えられ、糖質を補うことで改善する。
対策としては、1回の食事量を少なめに、何回かに分けて、ゆっくりと時間をかけて食べるようにする。消化のよいデンプンや糖分などの糖質摂取を控え、食事中には水分を控えめにして、流し込むような食べ方を避ける。後期ダンピング症候群の予兆があるときには、食後2時間くらいに糖質を含む間食をとる、外出時には菓子類を携帯するなどのくふうをする。
[渡邊清高 2019年5月21日]
胃切除の手術を受けた後におこる胃切後遺症の一つ。食後,心窩部(しんかぶ)(みぞおち)膨満感,圧迫感,悪心,嘔吐などの腹部症状と,脱力感,めまい,発汗,心悸亢進などの循環失調症状を伴う一連の症候群である。食事後,切除されて小さくなった胃から小腸内への排出が急速な場合(これを墜落的排出という)におこりやすい。原因として,小腸壁に対する化学的な刺激による自律神経反射と,さらに急速な浸透圧の変化による循環血液量の減少などがあげられている。炭水化物などの食物を減らし,流動食を固形食に変えるなど食事の量や質を変えたり,食後に横になるなど,体位を工夫して発症を予防する。薬物療法や外科的療法もあるが,いずれも確実なものはない。医師と患者の協力,忍耐および根気よい栄養補給を行うと,半年から2~3年で自然に回復することもある。
執筆者:北島 政樹
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…胃切除後は,胃が小さく,あるいはまったくなくなるので,種々の脱落症状(ある臓器の一部あるいは全部を除去したとき,その臓器の機能の欠如によって起こる症状)が起こってくる。最も厄介なのは食事後に起こる,めまい,冷汗,心悸亢進などを主体とするダンピング症候群である。そのほか,胃が小さいために食事が十分にとれない小胃症状,アルカリ性の腸液が食道に逆流して起こる逆流性食道炎,つなぎめの潰瘍の再発である吻合(ふんごう)部潰瘍,手術後の貧血などの合併症や後遺症がある。…
※「ダンピング症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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