胆嚢摘出後症候群(読み)たんのうてきしゅつごしょうこうぐん(その他表記)Postcholecystectomy syndrome

六訂版 家庭医学大全科 「胆嚢摘出後症候群」の解説

胆嚢摘出後症候群
たんのうてきしゅつごしょうこうぐん
Postcholecystectomy syndrome
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 胆石胆嚢炎胆嚢の摘出術を受けたあとに、上腹部の痛みや不快感、発熱黄疸(おうだん)吐き気などの、まるで胆石の発作のような症状が持続・出没する状態をいいます。

 以前は、このような症状を起こす胆道や胆道以外の内臓の病気もまとめてこう呼んでいましたが、診断技術が進んだ現在ではそれらの病気を除き、胆道の運動異常に原因があると考えられるものを胆嚢摘出後症候群と呼んでいます。

 胆嚢摘出後に症状がみられた場合、詳細な検査を行うと、総胆管結石が新たにみられたり、胆道気腫症(たんどうきしゅしょう)(胆道に空気が入り込む)や十二指腸乳頭(にゅうとう)総胆管の十二指腸への出口)が狭くなっていたり、さらにわずかに残っている胆嚢管に胆石が再発したり、細菌の感染が起こるなど、いろいろな病気が見つかります。

 ただ、なかにはまれに、どんなに検査しても胆道や周囲の内臓に原因となる病気が見つからないにもかかわらず、症状が続くことがあります。このような場合のみ、胆嚢摘出後症候群と呼ぶのがよいと思われます。胆道の運動異常の一種とも考えられるため、胆道ジスキネジーという呼び方をされる場合もあります。

検査と診断

 血液検査X線検査超音波検査で胆道の病気であることが疑われれば、CTやMRI検査、胆道造影検査などで診断を確定していきます。

 また、胆道の病気がみられない場合でも、胃や十二指腸、大腸など周囲の臓器に異常がないかどうかの検査も必要となってきます。

 胆道にも周囲の臓器にも異常がみられず、胆嚢摘出後症候群が疑われる場合には、放射性同位元素を用いたシンチグラフィーによる胆道の機能検査が行われる場合もあります。

治療の方法

 検査により何らかの異常が見つかれば、それぞれの診断に応じた治療が必要となります。これについては本書の各項目をご覧ください。

 胆嚢摘出後症候群の場合、胆汁の流れをよくする薬や、胆管の機能を改善するような薬などを内服することにより治療を行っていきます。

病気に気づいたらどうする

 まず、手術を受けた外科医を受診するか、消化器専門医に相談するのがよいでしょう。

 原因となる病気の有無を明らかにすることが大切です。胆嚢摘出後症候群であっても適切な治療を受ければ症状はよくなるので、あまり不安をもたずに、根気よく治療を続けることが大切です。

望月 仁

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「胆嚢摘出後症候群」の意味・わかりやすい解説

胆嚢摘出後症候群
たんのうてきしゅつごしょうこうぐん
postcholecystectomy syndrome

胆嚢摘出術を主体とした胆石症手術後に、おもに胆道に関係があると考えられる疼痛(とうつう)、発熱、黄疸(おうだん)、不快感などの症状が軽快せず持続または増強、あるいは新しく発生することがある。これらの病変を一括して胆嚢摘出後症候群とよんでいる。この症候群は特定単独の病態ではなく、原因は多種多様で病態も種々である。

 発生頻度は正常の生活に支障をきたすほどの症状を訴えるのは2~5%程度である。原因は手術前からあった病変によるものと、手術によって発生した病変によるものに大別される。前者は共存する病態の見落としに基づくもので、随伴する慢性膵障害、過敏性腸症候群、神経症などの存在の認識は重要である。後者は不完全な手術や手技によって新しくつくられた病態に基づくもので、遺残胆石や乳頭狭窄(きょうさく)の見落とし、胆管狭窄、再発胆石などが主要な病態である。

 症状は、上腹部不快感、右季肋(きろく)部(右側の最下方にある肋骨(ろっこつ)部)痛、黄疸、発熱、腹部膨満感、食欲不振、便通異常などである。治療は、原因により異なり、適切な検査を行い機能的異常が主体であると診断した場合は規則正しい生活を心がけ、暴飲暴食は避け、食生活を正しく、便通をよくすることが重要であり、内科的療法を行う。内科的治療に抗する場合、とくに器質的変化が原因と確診した場合には原因を除去する外科的治療に踏み切るべきである。遺残胆石には内視鏡的経乳頭的摘出も行われる。

[中山和道]

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家庭医学館 「胆嚢摘出後症候群」の解説

たんのうてきしゅつごしょうこうぐん【胆嚢摘出後症候群 Postcholecystectomy Syndrome】

[どんな病気か]
 胆石症(たんせきしょう)や胆嚢(たんのう)ポリープなどの病気で胆嚢を切除したあと、腹痛、黄疸(おうだん)、発熱など胆道疾患(たんどうしっかん)と関係がある症状や、吐(は)き気(け)、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、便通異常などの不定愁訴(ふていしゅうそ)がおこる状態をいいます。
[原因]
 多くの場合は、取り残した胆管結石(たんかんけっせき)があったり、あるいは手術後に胆管が細くなったり、乳頭炎(にゅうとうえん)や慢性膵炎(まんせいすいえん)などを併発したことが原因ですが、明らかな病変が指摘できない例もあります。このような場合は、胆汁(たんじゅう)がうまく流れず、胆道の内圧が上昇するために腹痛などが出現するのではないかと考えられています。
[検査と診断]
 まず胆石が胆管内に残っていないかなど、症状をおこす原因を調べる必要があります。検査しても、原因となる器質的な疾患(臓器の病変)が見つからない場合は、総胆管(そうたんかん)の十二指腸(じゅうにしちょう)への出口にあたるファーター乳頭(にゅうとう)の機能検査などが役立つことがありますが、その診断は簡単ではありません。
[治療]
 原因となる病気が明らかになった場合は、その原因を取り除く治療が必要です。たとえば、胆管に胆石が取り残されている場合は、十二指腸の乳頭部から総胆管内にカテーテルを入れて内視鏡的に取ることができます。
 胆管狭窄(たんかんきょうさく)がある場合などは、再手術が必要になることもあります。
 明らかな原因が見つからない場合は、対症的療法として、胆道(たんどう)ジスキネジー(「胆道ジスキネジー(胆道運動異常症)」)に準じた治療が行なわれます。また、難治性(なんちせい)の例に心身医学(しんしんいがく)的アプローチが有効なことがあります。

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