ヒルシュスプルング病(読み)ヒルシュスプルングビョウ(英語表記)Hirschsprung's disease

デジタル大辞泉 「ヒルシュスプルング病」の意味・読み・例文・類語

ヒルシュスプルング‐びょう〔‐ビヤウ〕【ヒルシュスプルング病】

腸の動きを制御する神経細胞が欠損しているため、重い便秘や腸閉塞を起こす先天性難病

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六訂版 家庭医学大全科 「ヒルシュスプルング病」の解説

ヒルシュスプルング病
ヒルシュスプルングびょう
Hirschsprung's disease
(子どもの病気)

どんな病気か

 慢性の便秘によって大腸拡張する病気です。

原因は何か

 大腸や小腸など消化管の壁のなかには神経節(しんけいせつ)細胞があります。その細胞の刺激により、蠕動(ぜんどう)運動と呼ばれる腸管の伸び縮みが起こり、口から摂取した食物は腸管を経由して消化され、便となって肛門から排泄されます。

 ヒルシュスプルング病は、この神経節細胞が先天的に欠如しているため、蠕動運動が起こらず慢性の便秘になり、大腸が拡張します。

症状の現れ方

 生まれてすぐの赤ちゃんでは、胎便(たいべん)の排泄が遅れることが最初の症状です。排便、排ガスができず、腹部は風船のように膨満(ぼうまん)してきます。哺乳力が低下し、濃緑色胆汁の色に染まったものを嘔吐したり、症状が進むと体重増加不良や栄養不良が現れてくることもあります。

検査と診断

 胎便が排出された時期はいつか、乳児ではおなら(ガス)が出ているか、何をどのくらい食べているか、便の性状と排便の頻度などを確認します。その後、腹部膨満の有無や、肛門から指を入れてガスの噴出や便の有無を確認します(直腸指診)。

 腹部X線検査を行い、拡張した腸管ガス像が腹部全体に認められ、小骨盤内の腸管ガス像が欠如していればヒルシュスプルング病を疑い、さらに注腸造影検査を行います。この病気では造影剤を注入した際、大腸の肛門側が狭くなっていることと口側の拡張および口径差を確認します。

 さらに直腸肛門内圧検査を行い、直腸肛門反射(直腸が拡張した際に認められる肛門管圧の下降)の欠如を確認します。また、直腸粘膜の生検を行い、腸管壁内の神経節細胞の欠如に伴う外来神経の増加を組織学的に確認します。

治療の方法

 腸管壁の神経節細胞が欠如した領域が非常に狭い場合は、浣腸などでコントロールできることもありますが、ほとんどは腸管の無神経節領域を切除し端々をつなぎ合わせる手術が必要です。無神経節領域の広さにより、根治手術を行う場合や、人工肛門腸瘻(ちょうろう)を造設する場合もあります。近年は、腹腔鏡(ふくくうきょう)補助下手術や経肛門手術が導入されています。

病気に気づいたらどうする

 がんこな便秘が続く場合は小児科医に相談してください。

大塚 宜一

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家庭医学館 「ヒルシュスプルング病」の解説

ひるしゅすぷるんぐびょうせんてんせいきょだいけっちょうしょうちょうかんむしんけいせつしょう【ヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症/腸管無神経節症) Hirschsprung's Disease】

[どんな病気か]
 腸管の壁内にあって腸の蠕動(ぜんどう)(イモ虫がはうような動き)運動をコントロールしている神経節細胞(しんけいせつさいぼう)が生まれつき欠如しているために、排便ができなくなる病気です。口側の正常部分に便がたまって拡張するので先天性巨大結腸症(せんてんせいきょだいけっちょうしょう)とも呼ばれています。
[原因]
 消化管の神経節細胞は、胎生5週に食道の壁内から下方へ伸びていきます。一方、仙尾部(せんびぶ)からは直腸部に移動します。この過程が途中でとまるために、腸に神経節細胞の存在しない部分ができ、その部では蠕動運動がおこりません。直腸下部からS状結腸(エスじょうけっちょう)にかけておこることが多いのですが、下行(かこう)結腸やまれに結腸全体、さらに小腸全域にわたっておこることもあります。
[症状]
 出生後24時間たっても胎便(たいべん)の排出がありません。嘔吐(おうと)、腹部のふくれがみられ、浣腸(かんちょう)をすると、爆発的な排便がおこります。こうした症状から、たいていは生後1週間以内に気づかれます。
 この病気の存在が、乳児期や幼児期まで見逃されることもあります。この場合は、便秘、異常な腹部のふくれ、やせ、発育障害などがみられます。
[検査と診断]
 腹部の単純X線撮影と注腸造影(ちゅうちょうぞうえい)を行なうと、腸の狭い部分と拡張した部分が映るので、この病気を疑います。
 確定診断には、腸壁の病理検査で神経節細胞がないことを証明する必要があります。
 直腸肛門内圧(ちょくちょうこうもんないあつ)測定を行なうと、内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)がゆるむ反応(直腸肛門反射)がみられません。
 直腸粘膜生検(ちょくちょうねんまくせいけん)を行なって、アセチルコリンエステラーゼ染色をすると、活性を示す神経線維束の異常増殖(いじょうぞうしょく)がみられます。
[治療]
 腸炎、穿孔(せんこう)、脱水がおこると全身状態が悪化し、生命が危険になります。これを予防するため、輸液、胃内チューブの留置(りゅうち)、腸洗浄(ちょうせんじょう)を行ないます。
 そして、人工肛門を造設して、そこから排便させます。
 その3~6か月後に、神経節細胞のない部分を摘出して、正常部の腸管を肛門部とつなぐ根治手術(こんじしゅじゅつ)を行ないます。神経のない腸の部分がごく短い場合は、人工肛門をつくらずに根治手術をすることがあります。
 手術後は排便がスムーズにできるようになるまで、浣腸(かんちょう)や坐薬(ざやく)の使用が必要です。また、軽い便秘や便の失禁(しっきん)がおこることがあります。

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改訂新版 世界大百科事典 「ヒルシュスプルング病」の意味・わかりやすい解説

ヒルシュスプルング病 (ヒルシュスプルングびょう)
Hirschsprung's disease

先天性巨大結腸症congenital megacolonともいう。便秘を主症状とする先天性の腸閉塞症で,1886年ヒルシュスプルングHarald Hirschsprung(1830-1916)により初めて報告されたので,この名がある。原因は大腸下部の神経節細胞が先天的に欠如しているためで,病変部の腸管が持続的に収縮して狭くなり,腸内容の通過が妨げられることによる。出生数5000に1例の割合でみられ,男女比は5対1である。病変部は直腸またはS状結腸であることが多く,この部分は狭小となり,それより口側の腸管は生後1ヵ月ころから二次的に拡張し,巨大結腸を呈する。しかし病変が結腸全体に及ぶ場合は,必ずしも巨大結腸を呈さない。

 症状としては次の三つの場合がみられる。(1)新生児ヒルシュスプルング病 ヒルシュスプルング病の大多数は生後1週間以内に発症し,急性腸閉塞症状を示す。95%に胎便排出遅延がある。(2)ヒルシュスプルング病に伴う腸炎 ときに劇症型の腸炎がみられる。(3)乳幼児ヒルシュスプルング病 便秘,腹部膨満,巨大腸管,発育不全がある。放置すれば脱水や栄養障害を起こし,生命の危険があるが,まれに軽症では浣腸や下剤で年長に達することがある。バリウムによる注腸造影では,一般に大腸下部の狭小化と口側腸管の拡張が認められる。直腸肛門部の内圧測定や直腸粘膜の組織化学染色が診断に用いられている。治療としては,神経節細胞のない狭小部腸管を切除し,正常の腸管を肛門につなぐ根治手術が必要である。
イレウス
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒルシュスプルング病」の意味・わかりやすい解説

ヒルシュスプルング病
ひるしゅすぷるんぐびょう

新生児にみられる代表的な小児外科疾患で、生後早期から始まる便秘、腹部膨満、胆汁性嘔吐(おうと)など腸閉塞(へいそく)症状を主訴とする。デンマークの小児科医ヒルシュスプルングHarald Hirschsprung(1830―1916)により記載されたので、この名でよばれる。原因は、腸の蠕動(ぜんどう)運動をつかさどる腸管壁内の神経節細胞が、部分的に欠如していることによる。腸蠕動がないため腸内容を肛門(こうもん)側に輸送することができず、腸閉塞症状をきたす。この無神経節腸管はかならず肛門を含み、口側への長さは症例によって異なり、なかには回腸末端まで無神経節部の及ぶこともある。古くは本症を巨大結腸症とよんでいた。しかし、それが下方にある無神経節腸管にうちかつべく、上方の正常腸管が異常に蠕動を高めたための二次的巨大結腸であることがわかり、現在ではこの病名は使われない。治療は、病気の本態である一見正常な肛門側の無神経節腸管を切除し、正常神経節腸管を肛門と吻合(ふんごう)する手術を必要とする。しかし新生児期は、安全のため、まず人工肛門を正常神経節結腸に置くことが多い。

[戸谷拓二]

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栄養・生化学辞典 「ヒルシュスプルング病」の解説

ヒルシュスプルング病

 →先天性巨大結腸症

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