動物の胆汁(胆液)の主成分の一つで,4個のピロール環が3個の炭素原子を介して結合したテトラピロール構造を主体とし,両端に2個の水酸基をもつテトラピラン誘導体の総称。その大部分が赤褐色のビリルビン(胆赤素)と青緑色のビリベルジン(胆緑素)(図1)であり,両成分の量比と濃度の違いによって,胆汁の色が変わる。ヒトの胆汁はほとんど胆赤素から成り,通常赤褐色を呈するが,肉食動物と草食動物はそれぞれ胆赤素と胆緑素が多い。胆汁色素はヘモグロビンの分解産物で,とくにヘムの代謝異常疾患では血中に胆汁色素が多量に形成され,皮膚が黄色くなることがあり,これが黄疸と呼ばれる。また急性ポルフィリン症の場合には,尿を空気中で光に当てると無色の胆汁成分が深紅色に変わる。
テトラピラン誘導体は炭素の二重結合の数により,ピラン(ウロビリノゲンなど),ピレン(ステルコピリンなど),ピラジエン(ビリルビンなど),ピラトリエン(ビリベルジンなど)に分類される。ヘモグロビンの分解はヘムオキシゲナーゼによって触媒され,ビリベルジンの生成とビリルビンへの還元が起こる。ヘムの分解ではまず鉄が失われ,ついでA,B,C,Dの四つのピロール環の中のA環,B環の間の架橋炭素が脱離することによって大きい環が開き,それに続く還元と最後の再酸化によってビリンが生成する。このビリンが大便に特有の色を与えている。コレステロールの大部分は肝臓で胆汁酸に変化し,胆管を経て排泄されるために,胆汁酸の排泄と代謝の異常はコレステロールの代謝に大きな影響を与えることになる。山村雄一らによると,ラットで胆管にカニューレを入れ,胆汁を体外に除いて腸肝循環を阻止すると,胆汁酸の合成は10倍近くに増加するが,このときタウロコール酸を十二指腸に注入すると,カニューレからの胆汁酸分泌は元の値にまで抑制され,コレステロールから胆汁酸への生合成も減少する。胆汁酸の投与はまた酢酸からのメバロン酸生合成も阻害するといわれている(図2)。
執筆者:徳重 正信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
胆汁中に含まれる色素で,赤黄色のビリルビンおよび緑色のビリベルジンを主成分とする.両者の量比および濃度によって,胆汁にさまざまな色を与える.肉食動物には前者が,草食動物には後者が多い.ヘモグロビンの分解産物で,図に示すような代謝経路を経る.網状内皮細胞中でヘモグロビンが分解されて鉄およびグロビンが離脱したのち,まずビリベルジンが生じ,ついでビリルビンに還元される.これが血液中のタンパク質と複合体をつくって肝臓に運ばれ,グルクロン酸と結合して胆汁中に排出される.ついで腸内に送られ,大腸で微生物による還元を受けてウロビリノーゲンになる.これは無色であるが,空気酸化を受けると赤褐色のウロビリンになる.胆汁色素の検出には次のような試薬または反応が用いられる.
(1)エールリヒのアルデヒド試薬(エールリヒ反応),
(2)エールリヒのジアゾ試薬(van den Bergh反応),
(3)グメリン試薬(発煙硝酸1:希硝酸6)に試料を重層すると,酸化作用により境界面に下から順に,黄,赤,紫,青,緑色を呈する.ビリベルジンにもとづく最上層の緑色をもって陽性と判定する(グメリン法),
(4)酢酸亜鉛のアルコール液,ウロビリンが存在すると緑色の蛍光を発する(Schlesinger法).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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「ビリルビン」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…胆汁色素(ビリルビン)が血液および組織中に増加した状態を意味し,臨床的には血清,皮膚,粘膜が黄色に染まる状態をいう。jaundice,icterus(ラテン語由来)はもともと黄色を意味する言葉であったが,現在は黄疸を指す言葉として用いられている。…
…
[成分]
胆汁中には有機,無機の物質が含まれているが,肝胆汁の95%以上は水分である。有機物が多く,そのおもなものは胆汁酸,リン脂質(レシチンが大部分),コレステロール,胆汁色素(大部分がビリルビン)などである。胆汁の褐色調は胆汁色素による。…
…胆汁色素の主成分で,赤褐色を呈するので,胆赤素とも呼ばれ,生体中ではビリベルジンの還元によって生成される。血清の淡黄色は主としてこの物質の存在による。…
※「胆汁色素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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