能の用語(読み)のうのようご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「能の用語」の意味・わかりやすい解説

能の用語
のうのようご

*は別に本項目があることを示す

上ゲ哥(あげうた)
 上音を基調とした謡いどころ。シテの出の謡(うたい)、最初の地謡(じうたい)、道行に用いる七五調韻文叙情叙景の内容。細かな節づけで、独吟にも用いる。

一セイ(いっせい)
 定形の句法をとる謡。シテやワキが登場しての第一声であることが多い。またその出をはやす囃子(はやし)を一セイという。

祈(いのり)
 鬼女と祈り伏せる法力との争いの演技。『葵上(あおいのうえ)』『道成寺』『黒塚(安達原)』にある。

イロエ
 静かな囃子で、主として女性の役のシテが、舞台を優雅に一巡する動作。

男舞(おとこまい)
 武士などの素顔の男性の役が舞う、力強くテンポの速い舞。笛と大鼓・小鼓が囃す(『安宅(あたか)』『小袖曽我(こそでそが)』など)。

楽(がく)
 舞楽をかたどった、ゆったりと、しかもリズミカルでエキゾチックな感じの舞。唐人や仙人などが舞う。笛と大鼓・小鼓・太鼓が囃す(『邯鄲(かんたん)』『唐船(とうせん)』など)。太鼓の加わらぬ楽もある。

カケリ
 修羅道(しゅらどう)の苦患や、狂女の興奮を表すダイナミックな動作。大鼓・小鼓に笛が加わる。緩急が激しい。(『八島(やしま)』や『隅田川』など)。

葛桶(かずらおけ)
 舞台で登場人物が腰掛ける、漆塗りの円筒形のもの。床几(しょうぎ)に掛けるという。位のある人物の表現。狂言ではこの蓋(ふた)だけを酒盃(しゅはい)にも用いる。

語り(かたり)
 物語のこと。シテやワキなどが一場の物語をする部分。心持ちや緩急、抑揚などが節のついた謡よりむずかしいとされる。能のなかで間(あい)狂言がナレーターとして語る例も多い。

神舞(かみまい)
 『高砂(たかさご)』など若い男体の神が舞う。気品高く颯爽(さっそう)とした位の速い舞。笛を主に大鼓・小鼓・太鼓が力いっぱい演奏する。

急ノ舞(きゅうのまい)
 能のなかでもっとも位の速い、緊迫した舞。笛を主に大鼓・小鼓が囃す(『道成寺』など)。太鼓の加わる急ノ舞もある。

キリ
 一番の能の終結部分をいう。かならずリズムにあった謡である。

クセ
 先行芸能の曲舞(くせまい)を能の始祖観阿弥(かんあみ)が能に導入したもの。能の表現の中心部分。謡と囃子の複雑なリズムのおもしろさが生命。地謡によってシテの舞うクセ(舞グセ)と、シテがじっと座ったまま動かぬクセ(居グセ)とがある。

位(くらい)
 能の演出基準をいうことば。曲の文学的内容、上演の難易、主人公の身分などを総合した概念で、演技、演奏のテンポほか、すべての表現を支配する。位が重い、位が軽いというように用いる。

クリ
 クセの序にあたる高い調子の謡。クリ→サシ→クセと接続する。

現在能(げんざいのう)
 普通の演劇のように、現実の時間と空間のなかで進行する能。『安宅』『班女(はんじょ)』『熊野(ゆや)』など。

小書(こがき)*
 特殊演出のこと。番組の曲名の左下に小さく書き添えるのでこの称がある。面・装束や囃子ばかりか、脚本自体にも変化の及ぶものがある。

子方(こかた)
 少年の演ずる役。子供の役のほか、天皇や義経(よしつね)の役などを子方にするのは、少年の無心の演技に気品を表現し、またシテをクローズアップする能独特の手法。

コトバ
 謡で節のない部分。しかし一定の抑揚があり、他の演劇の台詞(せりふ)とは異なる広義の歌である。

下ゲ哥(さげうた)
 低い調子で謡われる短い一節。上ゲ哥の序にあたることが多い。

サシ
 さらさらとリズムをとらずにうたう謡。

地謡(じうたい)*
 6~12人による能の斉唱団。いわゆる地の部分を謡う。能のナレーター役ともいえる。狂言にもまれに地謡の出る曲がある。

次第(しだい)
 七五・七五・七四の定型句による謡。登場人物が最初に謡う例が多い。またその出をはやす囃子も次第という。地謡による次第(地次第(じしだい))もある。

序ノ舞(じょのまい)
 ゆったりとして典雅な舞。美女、老女、美男の霊、草木の精が舞う。笛を主に大鼓・小鼓が囃す。太鼓が加わると華やかになる。

中ノ舞(ちゅうのまい)
 序ノ舞の端正さに対し、中庸の速度で舞われる情緒的な舞。美女、狂女、遊狂の僧、天女、妖精(ようせい)などが舞う。楽器構成は序ノ舞に同じ。

天女ノ舞(てんにょのまい)
 世阿弥(ぜあみ)が秘事として力説した天女ノ舞は今日伝わらず、ツレの天女の役の舞う短めの太鼓入りの中ノ舞をいう。

中入(なかいり)*
 扮装(ふんそう)をかえて再登場するために、登場人物がいったん橋懸りから退場すること。舞台の作り物に中入りすることもある。

名ノリ(なのり)
 素顔の男性の役が述べる自己紹介。節のついた謡われる名ノリは女性や老人、神や妖怪などに例が多い。

習い物(ならいもの)
 伝習や発表に特別の伝授を要するむずかしい曲や演奏。何段階ものランクづけがある。

ノル・ノラヌ
 謡または囃子の演奏で、リズムをとるかとらぬかをいうことば。リズムをとらぬ笛と打楽器の演奏を、アシライ吹き、アシライ打ちともいう。

破ノ舞(はのまい)
 序ノ舞や中ノ舞のあとに舞い添えられる短い舞。情炎さめやらぬといった場合の表現。

早舞(はやまい)
 さわやかで典雅な舞。貴人の霊や成仏した女性が舞う。笛を主に大鼓・小鼓・太鼓が囃し、途中から笛が一調子高い盤渉調(ばんしきちょう)になるのが特徴。

直面(ひためん)
 能面をつけない素顔のままの役のこと。このときも自分の顔を能面として扱い、顔面表情をすることはしない。

拍子合ワズ(ひょうしあわず)
 リズムをとらず、レチタティーボ風の謡い方。

拍子ニ合ウ(ひょうしにあう)
 リズムをとる謡い方。12音8拍の平(ひら)ノリ、2音1拍の中(ちゅう)ノリ、1音1拍の大(おお)ノリの3種に大別される。

舞う(まう)
 一番の能を演ずることを「能を舞う」という。踊るということばは絶対使わない。

夢幻能(むげんのう)
 日常の時間と空間を超えて、亡者や鬼、神など、異次元の存在が登場する能。『井筒』『鵺(ぬえ)』『高砂』など。

物着(ものぎ)
 能の進行途中で登場人物が舞台上で装束をかえ、また羯鼓(かっこ)などの小道具を身につけること。

八拍子(やつびょうし)
 能の基本である8拍のリズムのとり方。

ロンギ
 論議の意。シテとワキ、シテと地謡が掛合いでうたう謡。

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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