六訂版 家庭医学大全科 「脊椎損傷」の解説
脊椎損傷
せきついそんしょう
Spinal injury
(外傷)
どんな外傷か
脊椎は文字どおり人間の体を支える骨(バックボーン)で、
脊椎損傷とは、脊椎に過大な外力が加わって、骨折や
脊椎損傷が起こりやすい部位は、
原因は何か
青壮年の男性に多く、受傷原因としては、交通事故、高所からの転落、転倒、スポーツによるものなどです。スポーツでは水泳の飛び込み、スキー、ラグビー、グライダーなどで、若年者に目立ちます。とくに、水泳の飛び込みでは頸椎・頸髄損傷を起こしやすく、社会的にも問題になっています。
また、
症状の現れ方
上位頸椎損傷では頸部痛、後頭部痛のほか、頭を両手で支える動作をとることもあります。上位頸椎は呼吸をつかさどる神経の中枢がある場所ですが、脊柱管(前述)が広いために神経麻痺はあっても軽いことが多いといわれています。ただし、重度の損傷では四肢麻痺(ししまひ)や致命的なものもあります。
中下位頸椎損傷では頸部痛、頸部の運動制限や運動時痛が起こります。この部位では脊柱管が狭いために高率に脊髄損傷がみられ、四肢麻痺を生じます。また、脊髄は損なわれない場合でも神経根が損なわれると、上肢の疼痛、しびれ、筋力の低下がみられます。
胸・腰椎の脱臼・骨折では、しばしば神経の損傷を合併するため、腰背部痛に加え、両下肢の運動、知覚麻痺を生じます。また、排尿・排便障害を来すこともあります。骨粗鬆症を伴う高齢者の胸・腰椎圧迫骨折では下肢の麻痺が起こることは少ないのですが、しばらくたってから麻痺症状が現れることもあるので注意が必要です。
検査と診断
①問診、診察
どのような機転で受傷したかを問診したあと、局所の症状をチェックします。すなわち痛みの部位、圧痛、
②検査
画像検査が中心になります。まず単純X線撮影を行い、必要に応じて、CT、MRI(磁気共鳴映像法)などを行います。CTは単純X線写真では不鮮明な骨折線を映し出すことが可能です。またCTは脱臼や骨折を立体的に映し出すことが可能で、脊椎損傷の診断には極めて有効です。運動や知覚麻痺があり、脊髄・馬尾が損なわれている疑いのある場合にはMRIが不可欠です。
治療の方法
頸椎損傷では、まず首を
上位頸椎損傷に対しては、保存的な治療が第一選択になります。中下位頸椎損傷でも安定型の骨折(圧迫骨折、
中下位頸椎損傷で、脱臼や骨折が整復されない場合や、脊髄損傷を伴う場合には手術が行われます(図8)。手術の目的は、脱臼、骨折に対する整復操作、圧迫された脊髄の除圧、不安定な脊柱の再建です。
胸椎、および胸・腰椎損傷では強い外力によることが多いため、
胸髄損傷では完全麻痺の場合が多く、手術によっても回復する可能性はほとんどありませんが、早期にリハビリを開始することなどの目的で手術を行う場合もあります。
応急処置はどうするか
どの部位の脊椎損傷でも、まず患部を固定し、安静をとることが応急処置の基本です。
受傷現場から移動する場合、必ず頭部と体幹を一体として扱うことが大切です。これは不適切に患者さんを移送することによる二次的な脊髄損傷を予防するためで、マジックベッドなどを使うのがよいでしょう。
受診科目は整形外科ですが、頸椎損傷で脊髄損傷を合併していて呼吸状態が悪い場合には、麻酔科の専門医がいる医療機関に搬送することもあります。胸・腰椎の損傷では、胸部や腹部臓器の損傷を合併する場合があるので、外科医の診察も必要です。
朝妻 孝仁
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報