神経鞘腫(読み)シンケイショウシュ(英語表記)Neurilemoma

デジタル大辞泉 「神経鞘腫」の意味・読み・例文・類語

しんけい‐しょうしゅ〔‐セウシユ〕【神経×鞘腫】

末梢神経を取り巻く神経鞘しんけいしょう細胞(シュワン細胞)から発生する腫瘍聴神経にできることが多い。ほとんどが良性。

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六訂版 家庭医学大全科 「神経鞘腫」の解説

神経鞘腫
しんけいしょうしゅ
Neurilemoma
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 神経のそばに発生する良性腫瘍で、比較的みる機会の多い疾患です。

 1本の電話線のケーブルが多くの細い電線の束からできているように、1本の神経は多くの神経細胞線維が束になって成り立っています。神経鞘腫は、このうちひとつの神経細胞から発生するので、残りの神経細胞は正常なままです。ただし、ひとつの神経にたくさんの神経鞘腫が数珠のように発生することもあり、注意が必要です。

 発生する年齢は20~70代まで幅広く、平均年齢は40代後半といわれています。

症状の現れ方

 体の表面に近い部分では、(こぶ)として意識されます。

 この腫瘍は良性腫瘍なので、大部分の症例では瘤が成長する速さは比較的ゆっくりで、何年間も大きさが変わりませんが、比較的早く成長する例外的なケースもあります。

 神経のそばに発生しているので、痛みを伴うことがあります。瘤を押したときのみに痛みが出る(圧痛)、瘤を押すと発生した神経の走行に沿って電気が走るような痛みが出る(Tinel's sign〈チネル徴候〉)などの痛みの出方があります。

 体の深い部分に発生した場合は、原因不明の痛みやしびれを症状とすることが多いようです。

 最近はMRI検査(磁力を利用した画像検査)が発達し、ほかの病気の検査のために行ったMRI検査で、たまたまこの病気が見つかる機会も増えてきています。

 症状が進行すると、感覚障害(触られたときの感覚が鈍い)や運動障害(力が入りにくい)などの原因となります。

 脳神経に発生した場合、脳神経の障害(耳の聞こえが悪い、めまいがするなど)が発生します。

検査と診断

 X線検査で、直接腫瘍が写ることはありません。しかし、骨のそばに発生し、骨に食い込んで成長した場合、骨の欠損が写ることがあります。

 MRI検査で正確な発生部位を確認します。約半数の症例では、腫瘍の中心部とまわりの部分で色が違って描出されるため、矢の(まと)のような形をとり(図52­(a))、診断的な価値が高いといわれています。

 また、MRI検査で走行が確認できる太い神経に発生している場合、神経と瘤が隣にあることが画像で確認できれば、瘤が神経から発生している可能性が予想され、この病気であることを疑う重要な根拠になります(図52­(b))。

 神経の症状(感覚障害や運動障害)があれば、神経を伝わる電気信号が正確に伝わっているかを調べる筋電図という検査を行って、障害の程度を確認する場合があります。正確な病名を確定するには、実際に組織を顕微鏡で見て判断する必要があります。

 区別する必要がある病気として、同じく神経に発生する良性腫瘍の神経線維腫(しんけいせんいしゅ)や、神経に発生する悪性腫瘍悪性末梢神経鞘腫瘍(あくせいまっしょうしんけいしょうしゅよう)などがあります。

 手や足などのしびれなどの神経症状が中心的な症状であれば、腫瘍以外の神経を障害する病気、たとえば椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどが原因になっていることがあり、やはり区別が必要です。

治療の方法

 比較的小さく、痛みなどの症状がない場合は、経過観察のみでよいことが多いです。我慢できない痛みがある場合などは、手術をするとよくなることが少なくありません。

 手術は、腫瘍のできていない神経線維を傷つけないように、束になった正常な神経線維を腫瘍からはがしてから、腫瘍のできている1本のすじと腫瘍を切り取ります。図53は、実際の手術で正常な神経をすべて腫瘍からはがしたあと、腫瘍が発生している神経を切断する直前の写真です。

 手術操作で神経を直接傷つけることがなくても、手術のあとでしびれや運動障害が起こることがあるのは、こうして正常な神経をはがす操作が必要であるからです。多くは一時的で経過を見ているうちに回復してきます。

 正常の神経と腫瘍を手術中に見分けるために、手術用の顕微鏡を使用したり、微弱な電気刺激を組織に加えることで神経の場所を確認するなど、安全な手術を行うためにいろいろな工夫がなされます。

 完全に切除された場合、再発はほとんどありません。

病気に気づいたらどうする

 痛みやしびれを伴う瘤を自覚した時などは、整形外科医に相談してみてください。手術は骨軟部腫瘍を専門とする医師や、繊細な手術を得意とする手の外科の専門医が行うことが多いようです。

関連項目

 悪性末梢神経鞘腫瘍神経線維腫

森井 健司


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内科学 第10版 「神経鞘腫」の解説

神経鞘腫(Schwann細胞腫)(脳腫瘍各論)

(4)神経鞘腫(neurinoma)(Schwann細胞腫(schwa­noma))
 Schwann細胞由来の良性腫瘍で,全脳腫瘍の約11%を占める.前庭神経から発生する聴神経鞘腫が最も多く,ついで三叉神経,顔面神経,下部脳幹神経と続く.聴神経鞘腫は小脳橋角部腫瘍の80%を占め,臨床上また画像診断上,同部に発生する髄膜腫や類表皮囊腫(epidermoid cyst)と鑑別される.神経線維腫症2型では,左右両側に聴神経鞘腫の発生をみる(図15-14-4A).
好発年齢・性差
 成人に発生し,女性に多い.
臨床症状
 聴神経鞘腫では難聴,耳鳴り,ふらつき,めまい,三叉神経鞘腫では顔面の知覚障害を認める.
診断
 MRI上は著明に造影される脳実質外腫瘍として描出され,しばしば囊胞性の変化を伴う(図15-14-4B).聴神経鞘腫では内耳道の拡大,三叉神経鞘腫では錐体骨先端部の骨侵蝕像がCTや頭蓋単純撮影で確認される.
治療
 開頭術によって腫瘍を全摘出すれば,完治を期待することができる.ただし聴神経鞘腫では,腫瘍に接して走行する蝸牛神経と顔面神経をいかに温存するかが問題となる.最近では開頭術によって全摘出が達成されなかった症例や,比較的小さな腫瘍に対しては,ガンマナイフやLINACを用いた放射線外科治療が施行されることもある.[新井 一]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「神経鞘腫」の意味・わかりやすい解説

神経鞘腫
しんけいしょうしゅ

頭蓋(とうがい)内に発生する原発性の脳腫瘍(しゅよう)の一種。末梢神経線維の軸索を取り巻く神経鞘(シュワン細胞)から発生するためシュワン細胞腫ともいい、また、ほとんどが聴神経(第8脳神経)に発生することから聴神経鞘腫ともよばれる。三叉(さんさ)神経や顔面神経から発生する場合もあるがまれである。良性腫瘍であることが多く腫瘍細胞はゆるやかに成長するが、一部早く成長する悪性のものもある。

[編集部]

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百科事典マイペディア 「神経鞘腫」の意味・わかりやすい解説

神経鞘腫【しんけいしょうしゅ】

末梢神経の神経鞘(神経繊維)から発生する良性腫瘍(しゅよう)。皮下組織,後腹膜,縦隔,聴神経根などにみられる。手術で切除すればよい。
→関連項目脳腫瘍

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「神経鞘腫」の意味・わかりやすい解説

神経鞘腫
しんけいしょうしゅ
neurinoma

シュワン腫ともいう。末梢神経を包むシュワン細胞から発生する腫瘍。神経鞘内に発生するため,神経外膜から成る線維性被膜で囲まれている。 20~50歳に好発し,良性である。細胞は核の柵状配列を示すもののほか,細胞と線維の渦巻状の配列が特徴である。神経とつながっていることが多いので,切除の際には,どの神経とつながっているかを,あらかじめ電気的に調べておくことが望ましい。

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